「美しく生きる」とはどういうことか。『金子國義スタイルブック』のすべて

「生まれた時からおしゃれなの。」

この言葉を放つのは、画家・金子國義(1936-2015)。耽美と退廃、エレガンスと毒気——相反するものが一枚のキャンバスに共存する、唯一無二の世界観で知られるアーティストだ。歌舞伎の舞台美術で修行を積み、日本の伝統美とヨーロッパ文化の双方を血肉とした金子は、絵を描くことと同じ熱量で「美しく生きること」を実践し続けた人物でもあった。

『金子國義スタイルブック』は、そんな金子が弟子や周囲の人々に向けて実際に発した言葉とメッセージを、名作・未発表作など約45点の作品とともに収録した一冊だ。判型はハンディなハードカバー、日英バイリンガル仕様。現在、好評につき4刷を重ねている。

金子國義とはどんな画家だったか

1936年、埼玉県蕨市に生まれた金子國義は、幼い頃から「粋」と「張り」を大事にしろという家訓の中で育った。着物の着こなしが天下一品の祖母の影響もあり、幼少期からおしゃれへの感性を磨いていったという。

1964年、友人の高橋睦郎の縁で澁澤龍彦と出会い、その絶賛を受けたことで本格的に油絵に取り組み始める。1967年の銀座青木画廊での初個展以降、その作風は「耽美派」「退廃美」のキーワードとともに評価を広げ、国内外の熱狂的なファンを獲得していった。

キャンバスに向かう金子は、こんな言葉を残している。

「画家は綱渡りのような仕事。油断しては、ダメよ!」

芸術に対する真剣さの表れであると同時に、生き方そのものへの姿勢でもあった。

この本が伝える「金子スクール」の美学

本書の核心は、金子國義が弟子やアトリエに出入りする若者たちに伝え続けた言葉の数々にある。それはアートの技法論ではなく、もっと根本的な問い——「どう感じ、どう振る舞い、どう生きるか」——への金子なりの答えだ。

「片付けることは 感性を磨くことよ。」

金子のアトリエに入った弟子に最初に課されたのは、掃除と整理整頓だった。欧米の古雑誌、画集、写真集——そうした金子のコレクションを手に取り、目に焼き付けることこそが、美を理解する第一歩だと金子は信じていた。

「1ミリのこだわりが世界を変える。1ミリが見えない人は、何も見ていないも同じ。」

細部へのこだわりは、金子美学の根幹だった。パンツの裾幅は19センチでなければならない、まゆ毛の1本1本が大事——そうした言葉からは、美しいものへの徹底した目が伝わってくる。

「どんなチープなものでも、そこに洗練されたものが組み合わされば差し引きゼロ。」

高価なものだけが美しいのではない。組み合わせ次第で、センスは財力を超える——という言葉は、今も刺さる。

「どんなにお金があっても、センスがないなんて かわいそうねえ。」

辛辣でありながらどこかチャーミングなこの口調こそ、金子國義という人物の人格そのものだ。

日常に宿る「美しく生きるヒント」

本書が面白いのは、金子の言葉がアートに限らず、食事、所作、インテリア、花の生け方、人との付き合い方にまで及ぶ点だ。

テーブルマナーについては厳しかった金子は、こんな言葉を残している。

「フォークとナイフの持ち方を知らない人は、フォークとナイフを持った紳士を描けないのよ。」

知ることと表現することは不可分——これは芸術論であり、同時にたしなみの哲学でもある。

花の生け方についても独自の美学があった。

「人にプレッシャーを与えるような花の生け方をしないの!」

花瓶の水の量にまで目を配る繊細さは、日常のすべてをひとつの作品として見ていた金子らしい。

インテリアへのこだわりも並々ならぬものがあった。

「僕にとって部屋は、絵で描けないものを描くキャンバス。」

そして日本の美意識について、こう語っている。

「なんでも目立たず、自然がいいのよ。それが日本の美意識なの。『陰翳礼讃』よ。蛍光灯みたいに全てギラギラさせてたら、なんもかんも白けちゃうでしょうが。」

光と影の繊細なバランスを愛した金子のアトリエは、彼自身の傑作のひとつだったと言えるかもしれない。

人生を謳歌した人の言葉

この本には、美意識の話だけでなく、生き方や人生への言葉も数多く収録されている。

「岸辺に上がって、大空に朝日や夕日や月の出を見る感動こそ、死んでも惜しくない人生の証だと確信しています。」

享楽的に見えて、金子は美しいものへの感動を何より大切にした人だった。

「軽いっていうのは生活感を漂わせない、生活臭くないってことです。僕はね、軽くなることが人生で一番大切だと思っています。」

「軽さ」——それは金子が生涯を通じて追い求めたテーマだった。泥臭さや重さを手放し、エレガントに浮かび上がること。作品にも、言葉にも、生き方にも、その「軽さ」は一貫している。

「明日は、みんなにあるのよ!」。夜な夜な飲み明かした席でよく口にしたというこの言葉は、金子の人生観の核心を突く。明日を怖れず、今この夜を存分に楽しもう。寂しがり屋な一面もあったとされるこの言葉には、人を引き寄せる温かみがある。

バッグに入れて、毎日持ち歩きたい一冊

読者からはこんな声が届いている。「先生のお言葉を旨に、少しでも美しく生きていきたいと思いました」「紙も装丁も良くていい本でした」「作品のような本」——言葉と絵が互いを引き立て合う、稀有な本として受け取られている。

本書はハンディなハードカバー判で、バッグに入れて持ち歩けるサイズに設計されている。朝、出かける前にひとページ開く。電車の中で言葉を眺める。そんな日常の中に、金子の美学は静かに染み込んでくる。

収録された約45点の作品は、名作から未発表作まで。1970年代の初期作品から2010年代の晩年作まで、金子の画業を横断する構成になっており、初めて金子國義に触れる人も、長年のファンも、それぞれの楽しみ方ができる。

「絵は技法ではなくて、自分で見つけるもの。自分の中から生まれてくるもの。」

金子國義の言葉は、アーティストだけに向けられたものではない。「目でスケッチしなさい」「さまざまなものにひそむ美の原型に気づいて見逃さない。見つけたらとことん向かい合う」——これは、美を愛するすべての人へのメッセージだ。


書名:『金子國義スタイルブック』(4刷)
編著:金子修、岡部光
発行:アートダイバー
仕様:ハードカバー、四六判変、112ページ(カラー96/モノクロ16)、日英バイリンガル
価格:¥1,760(税込)
ISBN:978-4-908122-05-7
購入:https://artdiver.tokyo/product/stylebook

関連記事