東晋平『蓮の暗号 ―〈法華〉から眺める日本文化』

東晋平『蓮の暗号 ―〈法華〉から眺める日本文化』

¥ 2,860

「侘び・寂び」でも「アニミズム」でも「武士道」でもない日本。   

その流れは、あからさまな水音を立てない。
むしろ地中深くを潤し、あらゆる草木の根から茎へと巡って森を育んできた。
ありありと描かれているのに、私たちがそうとは気づかないもの。気づかせないもの。
それについて、あえて想像力を豊かに解読の妄想に耽ってみたい。(帯文より)


物語は、今から30余年前、著者がメトロポリタン美術館で運命的に出あった一双の屏風から始まります。江戸時代の絵師・尾形光琳によって描かれた《八橋図屏風》。それは、著者がはじめて自国「日本」の姿を実感した瞬間でした。

21世紀に入って世界の軸が徐々にアジアへと移り、日本にもインバウンドの波が訪れはじめます。一方で、日本文化が「侘び・寂び」「アニミズム」「武士道」といった紋切り型の言葉で語られるほどに、著者の中では違和感がくすぶっていました。あのメトロポリタン美術館で見た屏風に脈打っていた生命は、それらでは言い表すことのできない何かだったからです。

日本文化の土台には、まだ見落とされているものがあるのではないか。脈々と深部に流れ、豊かに咲き誇っているのに、ありありと描かれているのに、気づかれないでいた「暗号」のようなもの。著者が見出したのは、1500年もの長きにわたり日本文化に強い影響を与え続けてきた「法華」でした。法華経の影響は、文学、演劇、音楽、舞踊、茶、美術工芸といったあらゆる領域に表れているにもかかわらず、これまでほとんど語られることがありませんでした。

例えば茶の湯は、従来、禅との関係性が強調されてきました。しかし、著者は千利休が法華経と日蓮を信奉する法華衆のネットワークの中にいたことを本書で明らかにしていきます。動乱の桃山時代に絢爛たる芸術を開花させた茶人・絵師・職人たちの多くが法華衆だったことは、偶然なのかあるいは必然だったのか。

暗号を解く旅は、本阿弥光悦、俵屋宗達、尾形光琳、葛飾北斎ら、近世の日本美術史を彩る巨匠へと向かいます。さらに、仏教発祥の地インド、シルクロードの敦煌莫高窟をめぐりながら、著者の眼差しは日本だけでなくアジアの記憶の深部へと注がれていきます。

現代美術家・宮島達男の著作の編集にも携わってきた著者は、日本を貫いてきた法華思想が今もなお普遍的なメッセージとして世界を魅了する理由を語ります。

他者へと開かれ、生と死の深淵へ人々の洞察をいざない、対立を転換していく「美」。

本書は、日本の底流に脈々と受け継がれてきた「法華」の水脈を辿り直し、今日と未来への可能性を展望するスリリングな日本文化論です。

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目 次

メトロポリタンの燕子花 ―プロローグ

第1章 「琳派」という系譜―私たちが思う「和風」の誕生
ふたつの屏風/尾形家と宮中ファッション/放蕩息子の改心/江戸前期のアイノカタチ/クリエイターの〝理想の家〟/設計変更された新町屋敷/〝発見〟される美/MUJIのルーツ/メメント・モリ/アップデートされる光悦

第2章 茶の湯の成立―室町時代のゴージャス
「チャ」系と「テ」系/将軍家の喫茶/喜びて茶を啜る/和漢の境をまぎらかす/自己を統御する力/茶の湯とミサ/利休の師/「名物」の旧蔵者と時価/「本能寺の変」で消えた名物

第3章 利休と法華―茶の湯と法華の意外なつながり
黄金の茶室/本能寺の円乗坊宗円/受取人の秘密/泥に咲く蓮華/信長の宿所/千家再興/京都十六本山会合/禁中のパティシエ

第4章 桃山文化の原動力―なぜ動乱の世に美が開花したか
ラングドン教授の指摘/インド・メダイヨン/モノクロームの本尊/錚々たる豪華キャスト/紛争を転換する/娑婆即寂光/「題目の巷となれり」/発端となった法論/非暴力という選択/「中庸」という着地点/「宗教的なもの」への飛翔

第5章 光悦の実像をさがして―時代を動かしたプロデューサー
信長に直訴した女/法華町衆の倫理観/〝ママの遺伝子〟を運ぶ/日蓮が重視した「人格の錬磨」/「目利き」の眼光/通説を遠ざける/サロン文化と法華/『鹿苑日録』の光悦/鷹峯を巡る謎/本阿弥家と徳川家/禁中並公家諸法度/宮廷文化の揺籃

第6章 タゴールが見た「蓮」―インド・ルネサンスと日本
法華経を詠んだ歌/能に見る法華思想/光悦と日蓮遺文/〝再発見〟された光悦/ベンガル・ルネサンス/「Life of my life,」/岡倉天心との接点/釈尊の思想とタゴール

第7章 目覚めた人―思慮ある人は、奮い立ち、努めはげめ
地下水脈の源流/中道主義/「一本の矢」/暴虐のアショーカ/ガンディーと法華経/国章と国旗に刻まれたもの/われわれの未来の秘密

第8章 敦煌莫高窟―アジアの記憶の古層をたどって
法華経の成立/シルクロードの深夜特急/一九世紀最後の年/記憶の古層/仏教東漸/武寧王の子孫/感染症と大仏

第9章 道成寺伝説―最古のエンターテインメント
日出処の天子/西の敦煌と東の法隆寺/細部を磨いて加工する/ストーカー殺人事件/女性の希望となった経典/ユーラシアに刻まれた意匠

第10章 「風神雷神図」異聞―屏風絵のなかに隠されたもの
謎多き絵師/尾形光琳の秘めごと/莫高窟壁画との類似性/史上最大のスペクタクル/阿仏房さながら宝塔/ダビデの曾祖母/三草二木の譬え/宗達へのオマージュ/二仏並座の儀式

第11章 北斎「Big Wave」―一瞬のなかにひろがる永遠
一刹那の変化相/不死の門は開かれた/「瞬間」と「永遠」/変化し続けた人

第12章 ガジェットの仏陀―受け継がれる〝法華芸術〟
一夜の宗教劇/洗面器の宇宙/「三つのコンセプト」/究極の実在/億劫の辛労を尽くす/太陽と蓮華/ART in You/「不確実性」の創造力

千年紀への曙光―エピローグ

あとがき

 


書名:『蓮の暗号 ―〈法華〉から眺める日本文化』
著者:東晋平
ページ:352ページ

製本:上製本
サイズ:四六判(188×130mm)
装丁・レイアウト:矢萩多聞
ISBN:978-4-908122-20-0
2022年4月下旬刊行


東晋平(ひがし・しんぺい)
文筆家・編集者。1963年神戸生まれ。現代美術家・宮島達男の著書『芸術論』(アートダイバー)、編著書『アーティストになれる人、なれない人』(マガジンハウス)などを編集。

 

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