著者インタビュー|内田れいな「クロマニヨン人と私たちをつなぐ夢」


絵画の起源とされる「洞くつ」壁画を題材に、クロマニヨン人の主人公レイナが様々な困難にぶつかりながらも、画家として成長していく物語『はじまりはクロマニヨン』。
その第1巻の刊行を記念して、著者インタビューを公開します。著者はこの時空を越えた物語を通して、何を伝えようとしているのでしょうか。

テキスト:細川英一、德光椋子(ART DIVER)


― 『はじまりはクロマニヨン』が誕生するまでの経緯について伺います。内田さんは名古屋芸術大学から東京藝術大学の大学院に進まれていますね。

小さい頃から手塚治虫さんとかディズニー作品が好きで、将来は絵を描く仕事に就きたいという思いがありました。それで絵がうまくなりたくて、名古屋芸術大学の洋画科に進学しました。入ってみると当時は絵を描いている学生がほとんどだったのですが、頑張って制作している友だちはほぼ一部で……。絵の話ができるのはその数人の友だちか学校の先生だけでした。あるとき、学外の人に作品を見せる機会があり、ゲスト講師にいらした鬼頭健吾さんが私の作品を面白いと言ってくれたんです。それで、「東京藝大の大学院に入れるんじゃないか」とか、「小林正人さんの研究室がいいんじゃないか」と言われ……、もし少しでも受かる可能性があるなら頑張ってみようといろいろ調べて、小林先生の事前面談に行くことにしました。
それで当時描いていたキャンバスの作品を持っていったら、「こんなんじゃ全然だめだ」と言われまして……。

― 当時はどんな絵を描いていたのですか。

室内をモチーフにアクリルとか油絵具で描いていたんですけれど、半分具象、半分抽象みたいな絵でした。その後、試験には幸運にも合格できましたが、大学院に入ったら、「今までやってきたことを全部捨てろ!」って言われてしまったんです。「なんで絵を描くんだ? はじめから始めろ!」と言われ……、それで何をしたらいいのかとか、ものの良し悪しとかが、まったくわからなくなってしまったんです。美術館に行っても、友だちと話すにしても、何もかもわからなくなってしまった……。「外に出たいと思っても、出る外がない」ことに気がついて、学校のアトリエにある物置きみたいな細いスペースを黒いシートで光を遮断して暗い部屋をつくり、そこで何か月も過ごしました。光の入らない本当に真っ暗な部屋だったんです。
周囲が明るければ赤とか青とかの色が「わかる」けど、暗闇だとそれもよく見えない。そんな中で何をすればよいかを考え始めました。真っ暗な中で光をつくらないといけない、どうやったら光がつくれるのだろうかと試行錯誤しました。最初はロウソクだけを灯していたのですが、「一酸化炭素中毒になってはいけない!」と先輩に心配されちゃって(笑)。懐中電灯に布をたくさんかぶせて、絵の具が見えるか見えないかぐらいの空間で絵を触り始めたんです。暑い日も寒い日もそこにいました。
今思えば、「クロマニヨンの夢」は、この暗闇から始まっていたんだと思います。私はいつの間にか、2万年前の石器時代にタイムスリップしていたんです。

― 暗闇の中でどうやって光を描いたのですか。

暗い部屋の中で過ごしていくうちに、ベロア生地を発見しました。最初は黒い光沢のあるクラッシュベロア生地に描くことで、ほんの少しだけど光を捉えることができたんです。このベロアで壁を覆うようにした作品が、大学院の修了制作となりました。

2019年度東京藝術大学卒業制作展の展示風景より

やがて作品は、カーテンのかたちとなっていきました。それは、「窓」が欲しくなったからなんですね。暗い部屋にいた時、外を眺める窓が欲しかった。かつてクロマニヨン人が洞くつに絵を描いたのも、窓が欲しかったんじゃないかと想像しました。そこで私は、カーテンがあれば、その向こう側に見えない窓が生まれるんじゃないかなと考えました。ベロア生地を岩肌に見立てた土色のクラッシュベロアに変更し、カーテンを洞くつ壁画に見立て、何もない壁の向こう側に、「窓」をイメージさせる絵画をつくりはじめたのです。

― 「クロマニヨンの夢」と題された展覧会で発表された作品を見ると、カーテンを開けた状態のものと閉じた状態のものがありますね。

カーテンが閉じられている時は、「見えない窓=見えない景色=見えない絵」を想像できる絵画。カーテンを開いている時は、その空間に、その時々で見たい好きな絵や写真を「窓=景色=絵」として飾れるような絵画としました。
カーテンって瞼(まぶた)と似ている気がしませんか? 瞼を閉じると見えない窓を想像することができて、瞼を開けたら窓が見えて現実のものが視界に広がって外から光が差し込むじゃないですか。そう考えていくと、洞くつのカーテンを開けた先にはどんな絵でも、その時の見たい景色を見ることができるとわかって。
なので今は、開いているカーテンと閉じているカーテンの両方が存在することによって、窓の向こう側に“無限の景色”をイメージできると思ってます。
目を開けてモノを見ることと、目を閉じて見えないモノをイメージすること……、私は両方を大切にしたい。どちらも世界とつながる要素の一つだと信じているからです。

《クロマニヨンの夢》2021年

《クロマニヨンの夢 no.9(OPEN)》2022年

個展「クロマニヨンの夢」(渋谷西武「Art meets Life」2020年)

― 暗闇で過ごした経験から2万年前の洞くつ絵画へ接近し、カーテンや窓のモチーフと出会い、いよいよ「はじまりはクロマニヨン」という物語が誕生するわけですね。

はい。「はじまりはクロマニヨン」を描くきっかけとなったのは、ベロアのカーテン作品=《クロマニヨンの夢》をつくりはじめた頃に、YouTubeでたまたま見たエルカスティージョ洞くつの動画でした。パイソンや丸や四角などのカタチはまるで昨日描かれたみたいで、それらの洞くつ絵画が2万年前の時空を超えて、私の胸を揺さぶったのです。
「あああ、ここに私たちと同じ人間がいたんだ! 洞くつは、雨や風、動物達に消されずにイメージを残せる場所だったんだ!」と。
その時、私の頭の中で一人のクロマニヨン人の少女が洞くつに絵を描いている姿が浮かびました。すぐスケッチブックに鉛筆を走らせました。
そこで生まれたのが、クロマニヨン人の “レイナ” だったのです。

「はじまりはクロマニヨン」表紙の鉛筆画

― 漫画という形式現をなぜ選んだのでしょうか。また、 漫画をペンではなく鉛筆で描くのはなぜでしょうか。

やっぱり漫画が幼い頃から身近なものだったからかもしれません。先ほども言いましたが、小学生の時から手塚治虫さんやディズニー作品が好きだったので、当時から画用紙や自由帳に真似して描いてたんですよね。漫画家に憧れてはいましたが、国語が苦手だったのと漫画家は頭が良くないとなれないと思っていたので、漫画を描くレベルは自由帳に鉛筆で描いていた小学生のままで止まっていました。
そこから月日が流れて、頭の中にクロマニヨン人のレイナが現れた時、その少女が一体どうやって過ごしていたのか……何を楽しみに生きていたのか……その姿をスグに見たくなった私にとって一番早く見れると思ったのが、スケッチブックを破って鉛筆で彼女らが生きている姿を描くことでした。それがペン書きをしなかった理由のひとつです。
あの時は、せっかく出てきたイメージが消えないうちに「とにかく早く描かなきゃ!!」って。クロマニヨン人のレイナと被ってるかも(笑)。今からGペンや丸ペンは無理だし、iPadも持ってないし、今から技術を学ぶのでは、「レイナ」のいろんな姿が消えていっちゃうかもしれないから無理!となったからです。
コマ割り技術もないので、最低限の横線を2本描いて3コマをつくって描くことをベースにし、吹き出しをつけることは彼らに合わない気がしたので、彼らの近くに言葉を描くようにしました。実際はしゃべれてないと思いますし。
結果的に「鉛筆漫画」として成り立ち、「はじまりはクロマニヨン」との相性はバッチリだったと思います。

― 今回の本は、 B5 サイズと大きく、一般的な単行本漫画のサイズの2倍です。なぜこのサイズを選んだのでしょうか。

「はじまりはクロマニヨン」という(「はじクロ」って呼んじゃってますけど)「鉛筆漫画本」として本屋さんに並んでるところを思い浮かべました。やっぱり小さい頃に、本屋さんに並んでる漫画本を買って家に帰ってから夢中で読んだ夢とつながってるんですね。美術館やギャラリーでなくても、リビングや自分の部屋、カフェとかかしこまらない好きなところで気軽にパラパラと読める漫画雑誌と単行本の中間みたいな存在になれたらいいなと願ってます。
本のサイズに関しては、ツタヤなどの本屋さんに並んでる漫画本の山の中に、「はじクロ」を想像してみたり、神保町の古本屋街を歩き回ってはいろんな古い漫画や雑誌を手にとってサイズや印刷の色、表紙などを参考にしました。あの日々を思い出すとやっぱり漫画は夢だったんだな……。このプロジェクトが始まって、「本当に本になるかもしれない!」となったときは、すごく嬉しかったです。
実際はA4のスケッチブックに描いているんですが、印刷した本でも鉛筆で描いたリアルさを少しでも体感できるような本になることを前提に考えていました。「鉛筆漫画本」を実現させるには、A4サイズでもなく、単行本サイズでもなく、漫画っぽさを出しながら大きく見ることができる漫画雑誌のサイズが良いかもと思い始めました。
ジャンプなどの漫画雑誌を参考にデザイナーさんに本の仕様の設計をしてもらい、実際の大きさやページ数で本のかたちにした束見本が印刷所から手元に届いた時に、「なんか漫画っぽくない」と思って……。実際に家にあったジャンプを測ってみたら知っていた情報とサイズが違ったんです。なので漫画らしさを出したいがために、デザイナーさんにお願いして私が測った「漫画雑誌の実寸サイズ」に変更していただきました。今どき、デジタルの方が画質が良いからよく見える、手軽に読めるのでは?というのはあると思いますが、デジタルは手軽ですが私の頭からすぐ消えていっちゃうんですよね、漫画の世界観の没入感・体感は、液晶画面よりも本であり、紙を触りながらページをめくっていく方が、私にとって「よく見える」に値するように感じます。記憶に残るんです。

― なぜ、エルカスティージョの洞くつ絵画をテーマとしたのでしょうか。

当時で言ったら、アルタミラ洞くつとかラスコー洞くつとかは、今で言う美術館やすごい有名なギャラリーみたいな巨匠たちの場所になってたんじゃないかと思うんです。そんな神聖そうな場所、選ばれた天才しか描かせてくれなさそうじゃないですか(笑)。でも、レイナが実際にエルカスティージョ洞くつを訪ねてみると、そこも権力が支配する場所だった。そこで絵を教えてるガイムっていうクロマニヨン人がいるんですけど、彼は洞くつへ入り込んだレイナに「この選ばれし洞くつに入れる者は『選ばれし者』と『その手伝い』。皆が入れるのは『祭り』の時のみだ!」と言って追い出します。
そこでレイナは、自分と同じ悩みや夢を抱えている、絵を描きたくても絵を描く場所がない仲間達と一緒に“自分たちの洞くつ”を探していきます。
今はクロマニヨンの時代と違って、情報は得やすいですし、使うもの身につけているもの全てがガラッと変わってはいますが、手段が違うだけで社会的な問題や権威的な問題、理想や夢など、人間に関する根本的な事情は今も2万年前もさほど変わらない気がして。
私たち今絵を描いている人にとって、絵は洞くつ壁画から現代絵画までずーーーっと続いてるんです。エルカスティージョ洞くつの中に描かれている四角がiPhoneに見えたりしますよ(笑)。
彼らがどうやって描き続けていったのかを知りたい! レイナたちの悩みは、私たちの悩みなんです!

「はじまりはクロマニヨン」一部

― 2万年前の時代と今とがリンクする物語だということですね。

はい、例えば今回でいうと、後半のクライマックスに主人公レイナが暗闇で葛藤するシーンがあります。そこのシーンはこのインタビューの最初に話した大学院生の時に暗闇で過ごしていた経験が、2万年の時を超えてつながっています。登場するクロマニヨン人たちも、実際に私の周りにいる人々がモデルになっています。オカンとタイスケは、実際の家族がモデルです。物語の冒頭で、タイスケは家のことばかりを考えているシーンが描かれていますが、現実世界での彼は建築関係の仕事をしながら、毎日「建築とは何か」を暮らしや人とのつながりを通しながら考えていて、「自分にとっての建築」を実行するために夢を追いかけています。2万年前にもタイスケみたいな子はいたんじゃないかなぁ……って。大学での人間関係もたくさん作品に反映されてるんです。ここではちょっと内緒にしておきます(照)。ひとまずこんな感じで、藝大に入ってから出会った学生たちや先生たち……、私が彼ら彼女らと過ごしてきたことが、2万年前へとタイムスリップして「はじまりはクロマニヨン」という物語になっていくのです。自分的には、「今」と「はじクロ」の時代とを行き来しながら生活しているところがあって、現実世界で話をしたり見かけた人が、いきなりクロマニヨン人として物語の中に出てくる可能性もあります。また、クラファンで「あなたもクロマニヨン人☆♪!」っていう似顔絵を描いてサイン本と一緒にプレゼントする企画も行ったのですが、今でも暇さえあるとスタバとかでクロマニヨン人の似顔絵を描いてます。そこにいるカップルもクロマニヨンにしちゃって……。ペンは考えられないですね。鉛筆でスケッチブックに絵を描くように描くのが私のやり方です。
あと「クロマニヨン」ってファッション、けっこうオシャレだしかわいくて。去年見つけたファーベストはお気に入りです。

あなたもクロマニヨン☆♪!似顔絵スケッチ

― 物語はどのようにつくっていくのですか。

タイムスリップしていくと彼らの姿が徐々に見えてくるので、最初はiphoneのメモ機能を使って、聞こえてくる話し言葉だけを書いていきます。そのメモした言葉を見ながらスケッチブックを破って、動いている姿など、物語の中での様々な状況を描き溜めるんです。スケッチですよね。走り書きなので、特に決まった描き方はないです。破いたスケッチブックに小さく何度も同じシーンを描いたり、本番みたいに大きく描いてみたり……彼らの頑張っている姿を伝えるにはどうしたら良いかを試行錯誤します。だいたいのスケッチができたら、本番!!  ビリッ!!!!  新しくスケッチブックを破ってから、ササササッと鉛筆で描き起こしていきます! ちなみに、そのスケッチから本番まで、基本的には全て同じスケッチブックと鉛筆で描いていくのが、自分ルールです。

― 今回は1巻ということですが、最終巻のイメージはできているのですか。

ぼんやりとはあります。ですが、この物語は「今」とつながっているので、私の現実で起きた出来事がタイムスリップを経て、2万年前の物語となって進んでいくんですよね。
生きてると、予想しなかった出来事とか余裕で起こってくるじゃないですか。そういう驚き、変化、人との出会いや別れも関わってくるので……。物語も変わっていくかもしれないし……、まだ秘密です(笑)。
ただ、今はとにかく「はじまりはクロマニヨン」を完成させたい! 何巻になるかまだわかりませんが。

― 主人公のレイナは内田さんにとってどのような存在なのでしょうか。

「レイナ」は私なんですが、なりたい私でもあります。実は私自身、すごく優柔不断な性格なんです(照)。ピンチになって、お先真っ暗な時や、どうしたら強くなれるんだろうとか……、自分だけでは前に進めない問題に遭遇した時に、「レイナだったらどうする?」と聞きます。もちろん絵のことも相談します。なので、いろんなことでレイナに導かれることが多いです。「レイナ」は、クロマニヨンの時代にタイムスリップしながらつくるための架け橋的な存在でもあり、ひょこっと出てきて「こっちがいいんじゃない?」って導いてくれている友だちみたいな感じです。いつかどこかで会ったことがあって、よく知ってるようで知らない「もう一人の自分」のような存在かもしれません。
レイナじゃなくてタイスケやオーロラさんが出てくることもあります。この物語を描き進めていくとキャラクターはどんどん増えていくと思うので、たくさんのかわいいクロマニヨン人たち♡がひょこひょこっと出てきて、これからの私とどんな会話をしてくれるんだろう♪って今からとても楽しみです。
今回の出版で言うと、著者名は、作家名の「内田麗奈」ではなく、「内田れいな」にしたんです。本として出版できることになった時、「はじまりはクロマニヨン 内田麗奈」という背表紙をイメージした時に、題名と名前とのバランスや関係が合わないような気がしました……。レイナに聞きました。「どうする?」って。それで、友だちと鉛筆で漫画を描いていた小学生時代のことを思い出してました。当時の私は、「麗奈」っていう漢字が難しくて、よく間違えてたんです。画数も多いのでいつも「内田れいな」と書いていました。当時楽しく描いていた初心を忘れないようにしたいという気持ちと、「レイナ」と「内田麗奈」の中間地点として、出版するときだけ「内田れいな」でも良いのかもしれないと思ったのです。

― この物語をどんな方に読んでほしいですか。

絵を志している人はもちろん、レイナと同じ問題を抱えている「夢を追いかけている人たち」にとって、少しでも元気を与えれるような、背中を押してくれるような存在になれたら、「描いてよかった」ってなります。
2万年前……クロマニヨン人のレイナはイメージというものを残す術を知りませんでした。イメージというかけがえのないものが消えてしまう時代に、頭の中にあるイメージをなんとかして残したい!と願った少女たちの想いは、物だけが溢れてる21世紀の私たちときっと無関係ではないと思っています。
分け隔てなく老若男女いろんな方に読んでほしいです。ちょっと漢字がありますが、子どもが絵本感覚で読んでくれるのも、すごくありがたいことですし……、あたりまえのように単行本や週刊漫画雑誌など様々な種類の本に混ざって、部屋の本棚に並べられていたら、この上なく感謝でしかないです。
夢を諦めないクロマニヨン人の “レイナや仲間たち” と共に歩んでいけるようになってくれたら、何よりも嬉しいです。

― 最後に、内田さんにとっての「絵画」や「芸術」とはなんでしょうか。 

今の私にとっての絵画は「窓」であって、中と外をつなぐものです。

個展「クロマニヨンの夢」会場風景(TAKU SOMETANI GALLERY、2022年)

芸術は……、偉そうなことは言えないですけど、私の場合、「カーテン」や「窓」を通して、「夢」とつなぐことができるものかもしれないです。
朝起きてサーっとカーテンを開け、明るい窓から外の景色を眺めていると、「今日はコレとコレとアレもやろっ!」と元気をもらえます。日が落ちて1日が終わる頃にカーテンを閉めるとそこから窓が消えます。そのかわり目を閉じて、ベッドの中で夢を見ますよね。
「はじクロ」を描きながら、2万年前と現代とをタイムスリップするのはすごく楽しいんです。でも、タイムスリップってノスタルジーではなくて。大切なのはいつでも”今”だと思っています。うん……、今。2万年前と現代とを結ぶドラマに私の夢、みんなの夢を注ぎ込みたいと思ってます。やっぱり今どう絵を描いていくか、今をどう生きていくのか、悩むんですよね。未来に対する不安にかられることがありますし。そんな辛いことや悲しいことにぶつかった時に、描くことに救われている自分がいます。紙に鉛筆で描ける喜び! ホッとする……、頑張ろう!!ってなるんです。
今年の冬に、「クロマニヨンの夢」(ベロアのカーテン作品)をつくるアトリエとは別で、「はじクロ」を描く用のアトリエを引っ越したんです。2拠点ですね。新しいアトリエの写真を友だちに見せると、洞くつみたいだねと言われます。この秘密基地のような場所から、新たに夢を紡いでいきたいなと。
イメージというものが消えてしまう時代になんとかしてイメージをどこかに描き残そうとしたクロマニヨン人のレイナたちから、その知恵や夢、勇気を学んでるのかもしれないです。

押し入れを机にしたアトリエの様子:押し入れは宇宙に繋がる。子供の頃の夢=秘密基地=タイムスリップにぴったりな場所

(2023年8月17日、オンラインにて収録)

 

内田麗奈(うちだ・れいな)
1993年愛知県生まれ。2017年名古屋芸術大学美術学部美術学科洋画2コース卒業。
19年東京藝術大学大学院美術研究科修士課程油画第一研究室修了。
渋谷西武 Art meets Life、HIGURE 17-15 cas、TAKU SOMETANI GALLERYにて個展。
2023年10月4日(水)〜10月8日(日)までTAKU SOMETANI GALLERYにて出版記念展を開催予定。

内田れいな『はじまりはクロマニヨン1』

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