展評・感想|明日少女隊「We can do it!」Text:中島伽耶子「『we』の中に私はいるのか」

パサッ、、と、会場の作品が落ちた。
建物が揺れたのか、エアコンの風によるものか、理由はわからないがギョッとした。私は、はやく壁に固定しなくては、と思った。触っても動かないように作品は固定しなければならない、と。

「明日少女隊」による展覧会「We can do it !」が、東京の北千住BUoYで8月6日まで開催されている。「明日少女隊」とは、国籍や年齢もバラバラな50人近くの隊員が集まり、フェミニズムによる人権活動を行う匿名のアートグループである。蚕とウサギを掛け合わせたという、ピンク色のマスクがトレードマークだ。2015年の結成からこれまでの活動を、まとまった形で紹介する日本で初めての個展となる。

会場には、「明日少女隊」によるパフォーマンスやデモ行進の様子を記録した写真や映像作品が並び、画面の中で使われているポップなプラカードやマスクが展示されていた。作品ごとに扱われているテーマがあり、テーマごとにパフォーマンスに参加する顔ぶれも変わる。そして、テーマ内容も多岐にわたる。広辞苑の「フェミニスト/フェミニズム」の定義変更について、トランスジェンダーの人たちとフェミニストとの連帯について、各国の「慰安婦」問題を忘却させないための表明や、日本の性犯罪に関わる刑法改正について、家族のあり方や性別での押し付けについて。それぞれがとても具体的な事象を扱い、ストレートに主張する。そのストレートさに最初は戸惑ったが、やがて気がつく。社会問題は作品を成立させるコンセプトではないのだ。そう、これはアクティビズムなのだ。社会を変えるための行動であり、言葉であり、作品なのだと、そのストレートさが叫んでいる。

「APOLOGY: TOO MUCH TO ASK? 求めるのは誠実な謝罪」
「自分のために生きるのはワガママじゃない」
「フェミニズムはトランスと共に」

明日少女隊プラカードより

展示されたプラカードは作品ごとに使われるカラーが違うが、全体でフォントやデザインが統一されている。そのため、様々なテーマを扱っていながらも、展覧会全体で作品同士が強く連帯し合っているように見えた。体験した苦しさ、直面している問題は違っていても、それぞれがつながりあい、フェミニズムへと帰結する。
今回の展示に合わせて発売された同タイトルの書籍『We can do it !』の中にも、その連帯の空気は感じられた。これまでの「明日少女隊」の活動を紹介しながら、フェミニスト・アートの歴史や、日本の現状を丁寧にリサーチした資料などがページを埋める。教育機関でのハラスメントの多さ、痴漢被害件数、ジェンダーギャップ指数、差別の現状。ちゃんと考えることを放棄してきた問題を、つまりは私たちの生活に深く根をはる問題を改めて知る絶望感を、ポップさと連帯の空気感が助けてくれる気がした。「明日少女隊」の作品は「10代の子が一目で内容が理解できる」デザインを目指しているそうだ。社会を変えるために込められた言葉「We can do it !」のWeには、10代の子供達も対象となっているのだ。どうして、そのWeの中に入らずにいられるだろうか。

パサッ、、と、会場の作品が落ちた。
建物が揺れたのか、エアコンの風によるものか、理由はわからないが床に落ちたプラカードを見て、私はギョッとした。すっと、近くにいた大学生らしき女性が拾い上げ、そのプラカードを片手に友達と写真を撮り始める。友達も他のプラカードを壁から外し、二人で写真を撮り合う。ぼんやりその姿を見ながら、絵画のように壁に固定されるのはプラカードの死かもしれない、と思った。見られるためだけに存在するのではなく、社会を変えるために使う作品なのだ。必要な時に、何回でも、手に取ることができる。
「撮ってもらえますか?」と言われ我に返る。インスタ用だからと縦構図を希望される。プラカードを片手にポーズをとる二人の姿は、堂々としていた。

中島伽耶子(美術作家)
作家HP:https://www.kayakonakashima.com/
X(Twitter):@KayakoNakashima
現在、東京都現代美術館で開催中の「あ、共感とかじゃなくて。」展(2023年7月15日-11月5日)に出品中。https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/empathy/

 


明日少女隊作品集「We can do it!」
本の詳細・購入はこちら

関連記事