書評・感想|『明日少女隊作品集「We can do it!」』Text:片山香帆「『今』まさに活動が続けられていると知る」

明日少女隊作品集『We can do it !』(アートダイバー、2023年)は、2015年4月に結成された第4波フェミニズムの流れを汲む社会派アートグループ「明日少女隊」の作品集だ。そしてフェミニズムに関する基礎知識や時事問題を実践的に学ぶことができる「フェミニスト×アート」の入門書でもある。
恥ずかしながら私は『We can do it !』を読む機会を得るまで明日少女隊の存在を知らなかった。日本国内でアートを使ってジェンダー平等のために働きかける活動が行われていることすら知らなかった。この作品集に取り上げられているいくつかの問題を知らなかった。
『We can do it !』を読み進める中で、そういう自分自身の無知さ、無関心さを思い知らされた。明日少女隊の作品や活動の発端となった問題に大きなショックを受けたが、その出来事を知らなかったことがそれ以上にショックだった。なぜなら、それらの問題が馴染みのある日常と遠くない距離にあったから。

例えば、明日少女隊が2015年に発表した作品《なれるものなら“Happy彼女”》。ファッション雑誌『ViVi』の2015年4月号に「なれるものなら“プロ彼女”」という特集が組まれた。プロ彼女は、彼とのデートでは彼の三歩後ろを歩き、彼が料理をダメ出ししたら即謝って作り直し、もし彼が浮気をしたら「帰ってきてくれたらいい」と笑顔で許す、そんな女性を指すのだそうだ。明日少女隊はこの特集に対し、女性への暴力を助長する表現に抗議する公開書簡とこの特集へ問題提起をするパロディ作品を展開した。男性に従属的な女性を“プロ彼女”と呼んだことにもショックを受けたが、8年前にはこの衝撃的な特集が世に出回っていたのだと知り、驚いた。しかも『ViVi』2015年4月号の表紙には見覚えがあった。購読していたわけではないが、同じようなファッション雑誌を読んでいたことがある。そしてふと思った。同じような雑誌の同じような特集を自分は許容していなかったかと。明日少女隊が結成される前、私がまだ問題を問題として認識できていなかった頃、似たような内容が雑誌に掲載されていなかったかと。

作品集の半ばに掲載されているコラム「ジェンダー問題 21世紀の政治家失言集」に目を通した時も動揺した。2007年、当時の厚生労働大臣・柳澤伯夫による「(女性は)産む機械」といった発言を始めとする政治家のさまざまな失言が掲載されている。その中に日本オリンピック委員会の臨時評議員会で森喜朗が発した「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」という言葉があった。私がいち会社員として働いていた時、まったく同じ台詞を上司が呟いたことを思い出した。「女性活躍推進」を掲げ、女性社員が主となって行われる会議の場で、彼は同じことを言った。彼は「女性だけだと話が決まらない」とも言っていた。政治家と一般人である自分との距離は遠いが、上司と部下は決して遠すぎる距離ではない。身近にいる人からも同様の言葉が発せられることに気付かされたことで、自分自身にも疑問や課題を投げかけることができた。「男だから」「女だから」という言葉を使って、私も無意識に誰かを傷つけていないかと。

広告における家族の描写に疑問を投げかけるビデオ作品《フツーの家族》(2015年)では、韓国のテレビCMを使って性的役割分担を批判している。

CMでは、典型的な家族のかたちや人生計画の理想を押し付けたり、性別によって家族の中での役割を制限しているのが特徴です。女性は結婚で幸せな生活を送り、家族のために育児や家事をする人生があたりまえだというメッセージを繰り返し再生産しています。一方で、男性には家族を養うために計画的にお金を貯蓄すべきという保険会社のメッセージが、男性に経済的な負担を押し付けています。

明日少女隊作品集「We can do it !」アートダイバー、2023年、p.47

この作品集が冒頭で書いている通り、フェミニズムは全ての性の平等を願う思想である。“全ての性の平等”である。性的役割分担を押し付けられているのは女性だけではない。女性と男性だけでもない。全ての人ひとりひとりが異なる「性」を持つ。《フツーの家族》が問題提起するのは性的役割分担だけではない。CMでの家族の描写は父と母と子供の存在が暗示されがちだ。現実社会では、家族のかたちはもっと多様である。性的役割分担の課題は男性と女性の間「だけ」で起こるものだと思い込んではいないか。家族と聞いて、父と母と子供の姿「だけ」を思い浮かべてはいないか。

『We can do it !』を読み、過去の出来事を振り返るだけでなく、自分自身のあり方をも振り返ることができた。決して見過ごすことのできない社会の出来事を改めて知る良い機会となった。
時代とともに、性の多様性や平等を訴える広告がつくられ始めているし、明日少女隊や多数のフェミニスト・アクティビスト・グループの活動により変化も起きている。「フェミニズム」「フェミニスト」の定義の改訂を求めて行われた《広辞苑キャンペーン》(2017年)もその例だ。2018年に出版された広辞苑第7版では、「フェミニズム」の定義に「平等」という文字が加わっている。それでも男女二元論に依存したものや誤解を招く内容、疑問を抱くような広告、失言がなくなったわけではない。

『We can do it !』読後、感じるのは「今」だ。今もなお、国内外問わず問題提起が続けられ、作品や活動を通じて性の多様性や平等が訴えられていることが感じられる。
「フェミニズムって何?」「フェミニストってどんな人?」、フェミニズムやフェミニストといった言葉に少しでも関心があれば、その関心を深めるのに『We can do it !』は大いに役立つ。作品集冒頭のフェミニズム年表や2015年から2023年までの“明日少女隊フェミニズム年表”に記載されている社会の出来事は見逃せない。
もちろん、明日少女隊や社会派アートグループに関心がある人に、純粋に作品集としておすすめしたいとも考える。
最後に、全ての人に忘れてほしくないと感じたから、作品集を開いてすぐに目に飛び込んでくる言葉を引用する。

フェミニズムは全ての性の平等を願う思想です

明日少女隊作品集「We can do it !」アートダイバー、2023年、冒頭より

 


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