絵の具が、すべての物語をひとつに繋いだ。小林正人『この星の絵の具[下]新世界』2026年4月刊行 予約受付中
「新世界って何処でも開いてんだな。一秒後にもう始まってんだ。世界と自分が変わることを怖れさえしなければさ。」
本書の冒頭に置かれたこの言葉が、すべてを物語っている。
ベルギー・ゲントのスタジオから始まった物語が、スウェーデン、チュニジア、そして広島・鞆の浦へ。画家・小林正人による自伝的小説3部作、いよいよ感動の最終章が刊行される。
「新世界」とは、ゲントで始まった愛の時間だった
上巻では国立のアトリエで燃えた青春が、中巻ではベルギー・ゲントの国際アートシーンへの飛び込む様子が描かれた。下巻は、恋人シズカがゲントに引っ越してくるところから幕を開ける。
2年近い遠距離恋愛を経て、スタジオから歩いて10分のアパートに部屋を借りたシズカ。台所でお好み焼きをつくるシズカ。スタジオにいつも花が咲いていた日々。小林がヌードペインティングを完成させた夜、二人は冬のゲントの街を抱き合うように歩いた。
「これは画の女だ。この星のモデルさ――シズカがいなきゃ絶対に現れてない!」
画と愛は、小林にとってひとつのものだった。
白夜のスウェーデンへ――「見えない展示」の実験
下巻の核心となるのが、スウェーデンの現代アートセンター「テンスタコンストハル」での制作だ。キュレーターのイルバからのメールはこんな内容だった――制作過程をすべてパブリックにオープンにし、アーティスト名も知らせず、展覧会というもの自体を問う試みに参加しないか、と。
真夜中でも太陽が沈まない白夜のストックホルム。移民の子どもたちと一緒に落ち葉を踏む秋。1000平方メートルのホワイトキューブに、キャンバスを張りながら手で描く小林の姿。油で滑る床をアイススケートのように走り回る子どもたち。
そこに、ある日、果物の袋を持った見知らぬ男が現れ、制作中の画に絵の具を塗り始める。
「展覧会の展覧会で展覧会というもの自体を問う」という企ては、思いがけない出来事によって試される。画は守られるべきか、開かれるべきか。制作の瞬間と鑑賞の瞬間の境界線は、どこにあるのか。
「目的は画なんだ。俺の目的は行為じゃない」
小林の言葉は、ここでも画家としての核心を貫いている。
すべての物語がひとつに繋がるとき
チュニジアの砂浜に横になって見上げた星。カルタゴの廃墟に吹く風。広島・鞆の浦のアトリエの壁に掛けた、ネズミに食い荒らされながらも線を失わなかった最初期の画。
下巻には、画家として30年以上かけて辿り着いた問いが詰まっている。過去と未来は線ではなく、星座のようにひとつのところに存在している——そんな感覚が、読みながらじわじわと身体に広がってくる。
「願いがカタチになる『この星』の謎と神秘。天からの贈り物を授かり、これまでの物語すべてがひとつに繋がっていく」
3部作を読んだ人は、上巻の「天使」がどのような姿で下巻に現れるか、ぜひ自分の目で確かめてほしい。
小林正人プロフィール
1957年東京生まれ。東京藝術大学卒業後、国立のアトリエで制作を続け、1996年サンパウロビエンナーレ日本代表。翌年、伝説のキュレーター ヤン・フートに招かれてベルギー・ゲントへ渡欧し、以降ヨーロッパ各地で現地制作を展開。2006年に帰国し、広島県鞆の浦にアトリエを建てる。筆を使わず手で描く。キャンバスを木枠に張りながら制作する。「アーティストのなかのアーティスト(Artist’s artist)」と称されるその画業は、絵の具とキャンバスと木枠をひとつにする、独自の存在論に貫かれている。
『この星の絵の具[下]新世界』2026年4月刊行・定価1,870円(税込)
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