2010年代から始まったフェミニズム「第4波」ってなに?

これからの社会を動かす若者に向けた活動や実績が評価されている社会派アートグループ「明日少女隊」。世界各国に散らばる隊員によるアート&アクションは、社会を変える実行力において他のアート集団とは一線を画する。ここでは、フェミニズムの歴史において、明日少女隊が発足した「フェミニズム第4波」とはどんなものなのかを、『明日少女隊作品集 We can do it !』より紹介する。


2010年代から始まったフェミニズム「第4波」ってなに?

第4波フェミニズム(The 4th wave feminism)は、現在、世界で大きなムーブメントを巻き起こしているフェミニズムの新しい流れで、若者を中心に、2012年頃に始まりました。全ての性の平等をスローガンとし、女性の権利はもちろんのこと、LGBTQ+の権利、なかでもトランスジェンダーの権利を守るための運動や、男性を男らしさの抑圧から開放しようという運動も盛んです。
第4波フェミニズムのキーワードは、インターネットエンパワメントインターセクショナリティです。
第4波のフェミニストたちは、デジタルネイティブ世代。インターネットの活用のおかげで、一般市民の声が、瞬く間に世界に影響を与えることができるようになり、各国の女性たちが世界的なムーブメントをいくつもつくり上げています。また、テレビ、映画、雑誌、CMなどのメディアも積極的に利用し、フェミニズムをより広く社会に浸透させようと活発に活動しています。
エンパワメントとは、その人が本来持っている力を引き出し、自信をつけ、意志を持って自分の人生をいきいきと生きられるようにするプロセスのこと。例として、従来の女性に対する美のあり方に疑問を投げかけ、あらゆる体型が美しいと考えるボディ・ポジティブなどがあります。
インターセクショナリティとは、社会的不平等には、複数の要因(たとえば、貧困、性別、障がい、人種など)が多層的に交差しており、それぞれの問題を切り離して考えることができないという考え方です。たとえば、裕福な女性と貧しい女性の格差。日本ではいまだに男女の教育格差がありますが、同じ女性であっても、裕福な家庭の女性は良質な教材や塾・家庭教師などのリソースを得ることができるのに対し、貧しい家庭の女性は裕福な女性以上にバイトなどをして働く必要があり、勉強にあてる時間が少ないなど、経済力によってさらに格差が生じています。インターセクショナリティの考え方は、一人ひとりが抱えている困難は多様だとみとめ、個別のケアの必要性を訴えます。第3波フェミニズム頃から提唱されてきたこの考え方が、第4波ではあたりまえのこととして定着しました。
とはいえフェミニズムの波は、はっきりした始まりや、前の波とのさかい目があるわけではなく、国や地域によっても重点の置かれる問題やアプローチの仕方やタイミングに違いがあるので注意が必要です。

日本の第4波フェミニズムについてはまだあまり語られていません。しかし、明日少女隊の隊員たちの体感では、2015年に若手のフェミニスト団体がいくつも立ち上がったことや、2017年のジャーナリストの伊藤詩織さんの性暴力被害の告発をきっかけに、#MeToo のハッシュタグが日本でも多く使われるようになったことから、じわじわと広がってきたのではないかと考えています。

日本で活躍する!
若手フェミニスト・アクティビスト・グループ

NPO法人mimosas
性暴力の被害に遭ったとき、どこへ相談すればいいのか、相談したらどうなるのかなどの情報をわかりやすく発信しているサイトやメディアがないという相談をきっかけに2020年7月に発足。2021年4月に東京都より認可を受けてNPO法人となる。SNSを通じた情報配信や中高生向けの冊子作り、二次被害を防ぐ啓発としてのグッズ販売、エンパワメントを広げていくためのイベントを開催している。

一般社団法人Voice Up Japan
『週刊SPA!』が2018年12月25日号で掲載した「ヤレる女子大学生RANKING」に対して、当時大学生だった山本和奈がChange.orgで「女性を軽視した出版を取り下げて謝って下さい」と題した署名活動を行ったことを契機に設立。2021年現在、全国に20を超える学生支部があり、性暴力をなくしジェンダー平等を実現するためのアドボカシー活動、ロビーイングを行っている。

Fiftys Project
20代・30代女性(トランスジェンダー女性も含む)、ノンバイナリーなど多様な政治家を増やすために、候補者の支援やネットワーク、ボランティアの呼びかけなどを行う若手グループ。2023年の統一地方選挙では、Fiftys Projectがサポートをした候補者29名のうち 24名が見事当選を果たした。

#なんでないのプロジェクト
スウェーデン留学中に、日本の避妊法の選択肢や性教育の不足、セクシャルヘルスを守りにくい環境を痛感した、福田和子が、2018年5月に開始。現代的避妊法の承認など、日本の若者があたりまえにSRHR(性と生殖に関する健康と権利/セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ)を守れる社会の実現を目指してアドボカシー活動や実態調査を行っている。

一般社団法人ちゃぶ台返し女子アクション
「女性をはじめとするあらゆる性の人が、自分らしく生き、自由に想いを口にすることができる社会」を目指して2015年に始動。性的同意ワークショップの実施やハンドブックの制作・配布などを行ってきた。2020年からは、大学生自身が学内で仲間を集め、自らのパワーで性差別・性暴力をなくすための変化を起こしていくための「ちゃぶじょチェンジ・リーダー・プログラム」を開催している。

Honeyhands
2016年11月にローンチした、日本で語るのが難しかったり、タブーであるような、フェミニズム、レイシズム、LGBTQ+、感情、セックスなどについての話題を発信するバイリンガル・ウェブマガジン。誰でも自分の想いを発信できるセーフスペースを提供している。

「第4波」に起こったフェミニズム・ムーブメント

ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)
2013年から使われているアメリカの黒人へ向けての構造的な人種差別に抗議するスローガン。2020年、アメリカのミネソタ州で黒人男性が、警察の暴力によって殺害された事件を発端に、全世界的なデモへと発展した。

南米の性暴力反対のダンス・ムーブメント
2019年チリ出身のパフォーマンス・アート・コレクティブ「ラス・テシス」の性暴力を問題にした路上パフォーマンス《レイプしたのはあなた》が話題を呼ぶ。世界各地で様々な団体が自分の住む街で再現し、それぞれがネット上に動画を投稿したことで、世界的なムーブメントとなる。

フラワーデモ
2019年3月に、4件の性暴力事件について、地方裁判所で無罪判決が出された。事件はそれぞれ、酩酊状態の女性に対するものや、暴力が振るわれたもの、あるいは中学2年生や12歳の実娘に長期間にわたって繰り返されたものであった。この判決を受けて、4月11日に東京駅前に花を持って集まろうという呼びかけに応え、500人以上の女性が集まった。中には、過去に受けた性暴力をマイクの前で語る方も。このアクションは47都道府県に広がり、コロナ禍ではオンラインでも開催された。(なお、暴力が振るわれた事件を除く3件については、2020年に、高等裁判所で実刑判決)

スラットウォーク
2011年にカナダのトロントで始まった、性暴力サバイバーたちの抗議のデモ行進。スラットとは「あばずれ」の意味で、性暴力被害者への「被害に遭わないためにはあばずれのような服を着るべきではない」という警察の発言に対し、悪いのは加害者であって、そのような被害者非難はやめるべきだと多くの女性が立ち上がった。(被害者非難:詳しくは117頁の《無意識に誰かを傷つけないために》のプロジェクトへ)

#KuToo
俳優の石川優実が2019年に展開した、女性にパンプス着用を求める職場での服装規定を違法とするよう厚生労働省に求める署名活動。報道でも取りあげられ、4カ月で18,856筆が集まり、署名、コメントとともに厚生労働省に提出された。2020年には、#KuTooにエンパワメントされ、署名活動「#就活セクシズム をやめて就職活動のスタイルに多様性を保証してください!」が始まった。

#MeToo
2006年にアメリカの市民活動家のタラナ・バークが、性暴力被害者支援のスローガンとして「Me Too」を提唱。2017年10月、New York Times紙がハリウッドの映画業界でのセクハラを調査・報じたことをきっかけに、多くの女優たちが被害を告発し始める。俳優のアリッサ・ミラノがTwitterのフォロワーに向かってセクハラや性暴力を受けた人に「Me Too」とリプライするよう呼びかけると、数時間のうちに何千ものリプライがあり、#MeToo が世界的なムーブメントへと発展した。同年5月、日本では、伊藤詩織が元テレビ記者からの被害を訴えていたこともあり、著名人が被害を告白、日本でも#MeToo運動が広がった。

『明日少女隊作品集 We can do it !』アートダイバー、2023年、pp.20-23より抜粋、編集)


明日少女隊作品集 We can do it !

 

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