アート×フェミニズム×アクティビズムを実践する「明日少女隊」とは何者か?

これからの社会を動かす若者に向けた活動や実績が評価されている社会派アートグループ「明日少女隊」。世界各国に散らばる隊員によるアート&アクションは、社会を変える実行力において他のアート集団とは一線を画する。ここでは、明日少女隊の呼びかけ人・尾崎翠がグループ結成の経緯や活動のコンセプトについて語った文章を、『明日少女隊作品集 We can do it !』より紹介する。


FEATURE1
アート×フェミニズム×アクティビズム[註1]

明日少女隊(Tomorrow Girls Troop)は、 2015年にインターネット上で立ち上がった、ジェンダーも文化的背景も多様な、第4波フェミニズムの流れを汲む社会派アートグループです。ジェンダーとは、生物学的な性別に対して、社会的・文化的につくられる性のことです。そして、フェミニストとは、全ての性の平等を信じる人のこと。 そのジェンダー平等のためにアートを使って行動するのが 私たちのアート・アクティビズムです。私たちは、東アジアの若い世代向けのフェミニズムをテーマに、社会をより平等で、みんなが生きやすい場所にするため、パフォーマンス、ビデオ、写真、グラフィック、文章などを使って、社会問題の解決を目指す様々なプロジェクトを行っています。

[註1]アクティビズムとは、 社会的・政治的変化をもたらすために 特定の思想に基づいて意図的な行動をすること。

FEATURE2
明日少女隊に 「中心」・「上下」はない

明日少女隊は、日々隊員が増え続け、今では通算50名以上となりました。隊員は、発足当初から世界中に点在しており、拠点はインターネットです。日本と北米在住の隊員が多いものの、韓国、ヨーロッパ各国、南米にも隊員がいます。隊員はそれぞれ、生まれた場所も、育った文化的背景も多様で、その多くが留学や仕事、国際結婚などで世界各地を頻繁に移動しています。 グループの全員が共通して話せる言語はなく、主に日本語と英語、たまに韓国語でコミュニケーションをとっており、グループ内の意思疎通のために翻訳や通訳のお手伝いをすることはよくある光景です。世界各地に隊員がいることは、世界中のフェミニズムの情報を交換しやすく、より深みのある活動をすることができる一方で、どこか1カ所に集まって顔を合わせることは難しくなります。そのため、明日少女隊は、立ち上げ当初から、オンライン上にコミュニティをつくり、オンラインで活発に隊員同士で交流しながら、プロジェクトを運営しています。 隊員は10代後半〜30代の女性がほとんどで、学生や非正規労働者、また子育て中の女性など、時間にもお金にも余裕がない層の隊員が大半を占めます。しかし、オンライン上だけでプロジェクトを進められる明日少女隊のグループ運営は、結果的に、子育て中の隊員や、長時間労働や夜間勤務をしている隊員も参加しやすいアクティビズムのかたちだったようで、多くの隊員が、日々の生活の隙間時間で活動に参加しています。 私たちは、隊員たちが活動にやる気や充実感を感じている時こそ、一番、社会に強くメッセージを伝えられるアクティビズムができると思っています。 そのため、明日少女隊では入隊も、脱隊も、お休みも自由です。 また、私たちは、今の社会に根強くある、年齢や性別、学歴などによる上下関係をなくしたいと考えています。なので、積極的に若い隊員、新しく入隊した隊員をプロジェクトに呼び込み、どんどんリーダーシップを発揮してもらえるよう運営を工夫しています。

FEATURE3
少女隊はなぜ実名を出して 活動しないのか?

明日少女隊では、戦略的に匿名性を保って活動しています。明日少女隊を匿名のグループにしたのには、2つの理由があります。1つ目の理由は、みなさんに、私たちの見た目や性別、肩書き、学歴、出生などではなく、私たちの提起する社会問題そのものに焦点を当ててもらいたいという願いがあるからです。 1985年にニューヨークで誕生し、現在も現役で活動されているGuerrilla Girls(ゲリラガールズ)というフェミニストアーティストのグループがあります。彼女たちは、ゴリラのマスクを被り、常に匿名で活動しますが、彼女たちはあるインタビューで、グループの匿名性についてこのように語っています。 “We wanted the focus to be on the issues, not on our personalities or our own work.” (私たちのパーソナリティや作品ではなく、問題そのものに焦点を当ててもらいたい) そして、彼女たちは公演などで女性問題を扱う時に、匿名で活動することを勧めています。 日本でも、これまで実にたくさんの方々が、女性問題に関して多くの声を上げてこられました。しかし、メディアがその発言した人物の、容姿、ファッション、年齢、肩書きなどを強調し時に揶揄して報道することで、実際にその方が提起された問題が見えにくくなってしまうことが多々起こっています。このような傾向は、女性やLGBTQ+などのマイノリティ[註2]が発言した場合、また、男性でも、これらのマイノリティを擁護したり、支持したりする発言をした場合に、より起こりやすいようです。 ゲリラガールズとは、国や発足当初の時代も異なりますし、そもそも私たちは、女性オンリーのグループではありませんが、30年にわたり女性問題と対峙してきたゲリラガールズのこの言葉を信頼し、匿名での活動を検討しました。 また、2つ目の理由は、明日少女隊に発足当初からいて、DVなどの被害から実家と縁を切っており、実名で活動しにくい事情がある隊員への配慮でした。 私たちは、実名を出して活動できるというのは、ある程度ラッキーな立場(特権のある立場)であると考えました。それは実名を出しても、人から脅迫されたり、親から縁を切られたり、仕事を失ったり、嫌がらせをされたり、もしくはストーカーやDVの相手から追いかけられたりする心配の少ない人、もしくはそのようなことが起こっても、助けてくれる人が周りにいたり、安全に逃げられる場所がある人です。 しかし、女性や性的少数者こそ弱い立場に陥りやすく、私たちは、そのような不安定な立場の方も一緒に活動できるようにするために、匿名でのグループをつくることにしました。

[註2]社会的に立場の弱い少数者のこと。人口の半分は女性なので、少数者ではないように思えますが、女性は男性に比べて教育、政治、社会、経済などの分野で差別を受け、弱い立場におかれているため、世界的に女性はマイノリティと考えられています。

FEATURE4
明日少女隊はアーティストが少数派のアーティスト・ グループ

明日少女隊は、アーティスト・グループですが、実はアーティストはグループ内で少数派です。とはいえ、明日少女隊のほとんどのプロジェクトは、アーティスト隊員の主導の元でアートとしてつくられています。私たちのアクティビズムでは、アーティストの視点を大切にしているからです。多くのプロジェクトでは、アーティストの隊員が大まかなプロジェクトの進行を決め、グラフィックや、パフォーマンス、ビデオなどの作品をつくり、大学で政治やジェンダー学などを学んだ隊員が、私たちのメッセージを裏付ける資料を調べたり、当事者への聞き取り調査を行ったり、政治や歴史的な内容についての記事を書いて発信したり、またアクティビズムのための政治的なタイミングを見計らったりして、他分野の隊員と協力しながらアクティビズムを進めます。また、明日少女隊は、日本のフェミニズムをアカデミアからもっと多様な女性の手に届くように広げたいとの思いから、10代の隊員、高等教育を受けていない隊員、大学でジェンダーを勉強しなかった隊員に積極的に文章のチェックをしてもらい、できるだけ多くの人に理解されるわかりやすい表現を目指して何度も手を入れます。このようにして、それぞれの特性や専門性を生かしたコラボレーションをすることで、アートがより、社会を変えるための大切なツールとなり、その力を発揮できるよう工夫しています。また、私たちは、日本にフェミニズムのシスターフッドや連帯を広めたいと思っています。そのため、外部の団体とのコラボレーションも重視し、できるだけ多くの人とつながって、社会にフェミニズムのムーブメントを起こすことを目標としています。 明日少女隊のアート活動は、フェミニズムに対するバックラッシュや、不安定な政治情勢の中で、瞬発力のあるアクションとメッセージを示し、「アクティビズムをするアート」を実現することを重視しています。通常のアート作品のように、事前に予算や、作品制作のプラン、どこに発表するのかが決まっていることはなく、ほとんどは、臨機応変にアクティビズムの経過を見ながらその時その時でつくっていくという特殊なアートの制作方法をとっています。予測不可能な現代社会に生きる、みんなの明日、そして平等と幸せのために、「アート」のかたちを模索し続けています。

『明日少女隊作品集 We can do it !』アートダイバー、2023年、pp.4-11より抜粋、編集)


明日少女隊作品集 We can do it !

 

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