アートダイバー9期スタート―今後の出版予定など

2014年に立ち上げたアートダイバーは、2023年の6月末で第8期を終え、いよいよ9年目に突入します。これまでに刊行した書籍は23冊。出版社としてはまだまだの数ですが、自分自身の引退までの年月を見積もると、当初から目標としていた100冊の刊行がうっすらと見えてきた心持ちではあります。
出版社不況の時代にここまで来られたのも、著者のみなさま、デザイン・校正・編集をお手伝いいただく外部の協力者のみなさま、本の流通や販売をしてくれるみなさま、そしてなによりも、本を買ってくださる読者のみなさまのおかげです。改めてお礼申し上げます。

さて、9期目の出版予定は、これまでに増して充実のラインナップとなります。
1冊目を飾るのは、社会派アーティストグループ「明日少女隊」の作品集「We can do it !」です。7月に開催される北千住BUoYでの展覧会「We can do it !」(7/22-8/6)は、2015年に結成した明日少女隊のこれまでの活動を紹介する日本で初となる個展です。本書でも、明日少女隊の初期からの活動を丁寧にグラビアで紹介しておりますので、個展とあわせてご覧いただくと、明日少女隊のコンセプトや活動内容がより深く理解できるかと思います。
明日少女隊から本の出版の打診を受けたのは2021年の4月でした。初回の打ち合わせで、本を出版する動機を伺ったところ、日本では、美大などの専門機関であってもフェミニズムをきちんと学ぶ機会がないという状況に危機感を覚えているということがわかりました。そのため、この本はできるだけ価格を抑えて、学生さんや若い人でも買うことのできる本にしようということが第一にありました。こちらからは、若い読者層を想定するにあたり、ムック形式を提案しました。最近では聞きなれない言葉ですが、ムックとは「雑誌=マガジン」と「本=ブック」の中間のような形式の書籍です。フェミニズムというと固い印象を持たれがちですが、大きめのグラビアで雑誌を読むような気軽な感覚で本を手に取ってもらうこと、加えて、本のように長く読めるコンテンツの充実を目指しました。
この本の編集を通して、フェミニズムの歴史には盛り上がりを見せたいくつかの「波」があり、今は「第4波」の流れの中にあることも知りました。実際、明日少女隊が執筆をし、アートダイバーが編集を続けたこの数年間でも、日々フェミニズム関連の事件が起こり、大きな話題となっていきました。時代のうねりをそのまま本に閉じ込める作業は困難を極めました。おそらく単行本の形式では難しかったと思われますが、ムックの形式を使いつつ、吹き出しや対話のかたちで明日少女隊の生の声を盛り込むことで、うまく機能したように感じています。
作品集の体裁をとりながらも、フェミニズムの入門書という点にも力を入れました。フェミニズムを理解する上での必要な基礎知識に始まり、フェミニズムと関連する事件や事象についての年表、フェミニズムアート入門といった読み物も収録しました。短い期間でここまでの情報量をまとめ、1冊の本とした明日少女隊の熱意には頭が下がるばかりです。本書は、7月22日からの個展会場で販売されるほか、アートダイバーWEBでも同時販売をスタートします。書店やWEB書店でも7月下旬には発売が開始されますので、まずはお手にとってみてください。弊社書籍ページやhonto、楽天などの書籍紹介ページでは冒頭の試し読みも公開しております。

明日少女隊の出版のあとも、怒涛の出版ラッシュです。まだ公開できない本も多いのですが、近いところでは内田れいなの鉛筆漫画『はじまりはクロマニヨン』の刊行予定があります。その後も、アートダイバーのアイデンティティでもある美術史系書籍の出版のほか、展覧会の記録集が数冊、個人の作品集、前衛アートコレクティブの作品集、アートマーケット関連の本など、情報公開日となりましたら随時このページでお知らせしていきます。

本の出版に加え、ウェブページでの情報発信も進めていきます。先日、鈴木萌夏による「レントゲン藝術研究所の研究」の連載をスタートしましたが、出版を見据えたウェブの連載も引き続き考えていきます。われこそはという企画をお持ちの方がいらしたらご連絡ください。また、これまで情報発信はぽつりぽつりとSNS上で行ってきましたが、ひとり出版社である以上、主宰者の考え方や方針をもう少し前面に出してもいいのでは、という考えに思い至り、今回のような編集雑記というカテゴリで放言することとしました。本の出版や編集にまつわることが多くなるとは思いますが、それ以外にも必要とあらば自由に執筆する予定です。アート業界に20年ほどいると、専門的なことに興味が向かい、その前提となる基本的な考え方とか基礎知識のようなものを発信することを忘れがちです。しかし、美術メディアが弱体化し、コマーシャリズムに飲み込まれ、美術の本質が見失われつつある状況を見るにつけ、これからの美術のために微力であろうとも情報発信をする所存です。

アートとは、長い道のりそのものです。これまでどおり、素晴らしいアートの共闘者たちとトライ&エラーを繰り返しながら、9期目も進んでいければと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。

アートダイバー代表 細川英一

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