美大受験の「あの特訓」には 100年分の歴史があった。 荒木慎也『石膏デッサンの100年―石膏像から学ぶ美術教育史』

石膏デッサンとは、受験のためだけに存在するものなのか? それとも、もっと深い何かを持っているのか。この本は、その問いに正面から向き合った、日本初の本格的な「石膏デッサン研究書」です。

美大を目指したことがある人なら、きっと覚えている

薄暗い予備校のアトリエ、白い石膏像、鉛筆を走らせた長い時間——美術系の大学を受験した人なら、誰もが石膏デッサンの記憶を持っています。無数の観察、消しては描き直す日々。「うまくなりたい」という焦りと、「なぜこれが必要なのか」という疑問が入り混じった、あの時間のことを。

ところが、苦労して身につけた石膏デッサンの技術は、いざ美術大学に入ってみると、一転して白い目で見られることがあります。「石膏デッサンの技術は、創作活動には有害だ」とすら指導する教授も存在します。石膏デッサンは、受験では必須なのに、大学では不要とされる——この矛盾は、いったいどこから来るのでしょうか?

石膏デッサンは「筋トレ」か「悪しき因習」か。この問いは、美術教育の世界で100年以上繰り返されてきました。本書は「どちらが正しいか」という不毛な議論を超えて、石膏デッサンの歴史そのものを丁寧に読み解いていきます。

書籍情報

書名 石膏デッサンの100年―石膏像から学ぶ美術教育史
著者 荒木慎也
出版 アートダイバー(2018年2月1日)
仕様 A5判変・ソフトカバー・256ページ
ISBN 978-4-908122-08-8
価格 ¥2,420(税込)

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この本で何がわかるのか

本書は大きく2部構成になっています。前半(1〜3章)では「石膏像」そのものの正体と歴史を、後半(4〜6章)では「石膏デッサン教育」がどのように日本に根付き、変容してきたかを追います。

目次

  • 序:問題の所在と本書の射程 なぜいま石膏デッサンを問い直すのか。これまでの研究が見落としてきたことを整理します。
  • 第1章:パジャント胸像とは何者なのか 日本中の美術室に存在する「あの像」のオリジナルがどこにあるのか——これまで謎だった正体を解明します。
  • 第2章:美の規範としての石膏像 古代ギリシャから帝国主義の時代へ。石膏像がどのように「美の基準」として機能してきたかを探ります。
  • 第3章:工部美術学校と東京美術学校の石膏像収集 日本に石膏像が輸入されたのはいつ、どこから?明治期の美術学校の記録から、知られざる収集史を掘り起こします。
  • 第4章:芸術の本質としてのデッサン 黒田清輝の石膏デッサン論から「デッサンの規格化」へ。教育の中核となっていったプロセスをたどります。
  • 第5章:反・石膏デッサン言説 「石膏デッサンは有害だ」という批判はいつ、誰が始めたのか。教官と学生の対立、野見山曉治の入試改革など。
  • 第6章:美術予備校の石膏デッサン 「デッサンの神様・安井曾太郎」の登場から現代まで。美術予備校という独自の場で育まれた石膏デッサン文化の全貌。

読んでわかる3つのこと

① あの「石膏像」はどこから来たのか

パジャントやブルータス、アグリッパ……。日本の美術教室に必ず置かれている石膏像たちのオリジナルは、実はヨーロッパの美術館にある古代彫刻のコピーです。しかしその多くは、なぜその像が選ばれたのかが長い間謎でした。本書は文献調査によってその正体を突き止め、「日本に石膏像が輸入されるまでの道のり」を丁寧に解説します。

② 「是非論」の前に知っておくべき歴史

石膏デッサン不要論は決して最近の話ではありません。モダニズムが台頭した20世紀初頭から、「古典的な模倣訓練は創造性を殺す」という批判は繰り返されてきました。本書はその論争の歴史を一本の線でつなぎ、「いまの常識がどのように作られてきたか」を見せてくれます。

③ 美術予備校という独特な場の誕生

日本には「美術予備校」という、世界的にもユニークな教育機関があります。石膏デッサンの技術が短期間で急上達する「奇跡の場所」はどのようにして生まれたのか。6章ではその歴史と現在を丁寧に描きます。

著者プロフィール

荒木慎也(あらき・しんや)
1977年名古屋生まれ。東京藝術大学美術学部芸術学科卒業後、東京大学大学院総合文化研究科博士課程へ。2013年に博士(学術)を取得。東京大学教養学部特任助教を経て、成城大学・多摩美術大学・武蔵大学の非常勤講師を務める。専門は近現代美術史および美術教育学。

本書は2016年に三重大学出版から刊行された初版(300部)が数ヶ月で完売。その後、より多くの読者に届けるべく、アートダイバーが著者と協力して改訂版を制作しました。美術教育の現場にいる方から、受験生、日々制作と向き合うアーティストまで、幅広い方にぜひ手にとっていただきたい一冊です。

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