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インタビュー| 千葉市美術館学芸員 森啓輔

森さんインタビュー アイキャッチ

宮島達男『芸術論』重版記念企画(2)

インタビュー| 千葉市美術館学芸員 森啓輔

Text : 平澤 碧

 

2020年9月19日から12月13日の会期で千葉市美術館にて開催中の「宮島達男 クロニクル 1995-2020」。千葉市美術館拡張リニューアルオープンと開館25周年記念として企画された本展覧会は、首都圏の美術館では12年ぶりに開催された宮島達男の大規模な個展である。開催の意図と、これまでの経緯について、担当学芸員の森啓輔さんに話をうかがった。

 

― 千葉市美術館の開館記念展「Tranquility−静謐」(1996年)は、杉本博司、宮島達男、ニエレ・トローニ、ミシェル・ヴェルジュ、マリア・ノルトマンのグループ展でした。開館25周年にあたる今回、宮島さんの個展を企画したのはなぜでしょうか。

 千葉市美術館では、美術館が所蔵しているコレクションを起点として、展覧会を企画する傾向があります。今回の展覧会では、コレクションであり、開館記念展に出品されていた宮島達男《地の天》(1996年)が起点となっています。
今回の展覧会を担当することが決まってからは、宮島さんの作品を見る機会を意識的に設けてきました。というのも、2008年に水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催された「Art in You」以来、関東圏では大規模な個展が開催されておらず、宮島さんの作品をまとめて見ることができませんでした。直島の家プロジェクト、原美術館、東京都現代美術館、東京オペラシティなどで見られる宮島さんの作品はもちろん、2019年の上海民生現代美術館での個展にも足を運びました。いろいろな場所で宮島さんの活動を見て、自分の中で作品をつないでいく作業をしていたんです。

宮島達男《地の天》(1996年)展示風景 Photo by Nobutada Omote

― 担当になる以前から、宮島さんの活動に関心を持っていたのでしょうか。

 宮島さんの活動に改めて関心を持つきっかけとなったのは、「時の蘇生・柿の木プロジェクト」でした。以前、私が勤めていたヴァンジ彫刻庭園美術館は、ベルナール・ビュフェ美術館と隣接していて、そこで、柿の木プロジェクトが行われていたんです。植樹から10年後に開催される収穫祭に立ち会う機会があったのですが、場の持っている熱量や雰囲気に圧倒されました。この経験から、LEDの作家という一般的なイメージに収まらない宮島さんの活動にいっそう興味を持つようになりました。
柿の木プロジェクトは、植樹を通して地域に根づき、共同体の中で平和について考えていくプロジェクトです。今回の展覧会をつくるにあたっても、こういったことを千葉で実現できないかを探っていきました。

― 展覧会では、LEDを使用した作品よりも、パフォーマンスやプロジェクトベースの作品に力点を置いているように感じたのですが、展示構成はどのように決定されたのでしょうか。

 たしかに、パフォーマンスやプロジェクトベースの作品を多数紹介しています。一般的には、LEDの作家として知られている宮島さんですが、もっと幅広く活動をしているんだということを、宮島さんを初めて知る人だけでなく、よく知っている人にも伝えていきたいと思い、このような展示構成を提案しました。
展覧会をつくるにあたって、重要となったのが1995年という年です。今回の展覧会では、《地の天》の制作年であり、美術館の開館年である1995年を一つの切り口としました。リサーチを進めていくと偶然にも、この年は宮島さんにとっても、重要な年であることがわかりました。パフォーマンスを再開し、柿の木プロジェクトを構想したのが1995年だったのです。このことからも、パフォーマンスと柿の木プロジェクトは、展覧会で欠かすことのできない要素となりました。

― 新型コロナウイルスの流行は、展覧会の準備に何か影響を与えましたか。

 結果的に、新型コロナウイルスの流行は、展覧会を深めることにつながりました。宮島さんは、世界中で多くの展覧会を行う方なので、展示プランを組み直すことはあまりないそうです。しかし、今回の展覧会では、何度もプランを見直し、より細かいところまで注意が払われています。新型コロナウイルスの流行で、海外での展覧会の延期が重なり、これまでの活動を振り返る環境が整ったんですね。
特に何度も検討されたのがLED作品の部屋でした。宮島さんは、空間を生かすアーティストなので、一つの空間に作品をたくさん設置することは、これまでありませんでした。当初のプランでも、作品同士の距離を十分にとって、一つひとつの作品が最大限よく見える配置となっていたのですが、何度もプランを変更し、今のかたちに落ち着きました。会場照明についても、微調整を重ねています。ぜひ、実際の空間をご覧になって、体感していただきたいと思います。

LED作品の展示風景 Photo by Nobutada Omote

― 千葉市美術館が所蔵するコレクションとのコラボレーション作品《Changing Time/Changing Art》は、どのように制作されたのでしょうか。

 コレクションとのコラボレーションについては、宮島さんが提示したプラン通りに実現できました。展示プランについては、展示室の空間的特性やコレクション作品のサイズ感をシミュレーションしてつくられていきました。
今回の展覧会は、千葉市美術館の拡張リニューアル記念展でもあります。リニューアル=新しく生まれ変わるということで、美術館を再生する展覧会を目指すことも、今回の目標の一つでした。宮島さんとのコラボレーションを通して、すでに美術史に記述され、価値が定まったコレクションを再解釈する機会がつくれたと思います。同時に、これは宮島さん自身も、宮島達男というアーティストを再解釈する機会となったのではないかと考えています。《Changing Time/Changing Art》というタイトルは、歴史という固定した解釈から解き放つことを意図してつけられたのではないでしょうか。

《Changing Time/Changing Art》(2020年)展示風景 Photo by Nobutada Omote
今回の展覧会では、千葉市美術館のコレクション作品から選ばれた河原温、中西夏之、菅井汲、李禹煥、杉本博司の作品と、宮島達男のコラボレーション作品である《Changing Time/Changing Art》が出品されている。同作は、デジタル数字が切り抜かれたミラーシートでコレクション作品が展示されているガラスケースを覆う、展示室全体を使ったサイトスペシフィックインスタレーションである。

― 美術史における宮島達男というアーティストの立ち位置についてはどうお考えですか。

 宮島さんが、日本を代表し、第一線で活躍しているアーティストであることは共通認識ですし、宮島達男の名前は、すでに美術史に記述されています。そこで問題となるのは記述のされ方です。宮島さんは、1988年のヴェネツィア・ビエンナーレ以降、1989年の「大地の魔術師たち」展、「アゲインスト・ネイチャー」展をはじめとした数々の展覧会への参加を通して、海外での評価が先行してきました。そして、その背景には、1980年代から90年代にかけて行われていた、西洋中心主義的な価値観の刷新を図る、マルチカルチュラリズムの議論があります。つまり、海外での宮島さんへの評価には、西洋が日本という外部を理解するのに宮島さんが必要とされたという側面があるんです。
しかし、宮島さんは、例えば柿の木プロジェクトの活動が近年のソーシャリー・エンゲイジド・アートの観点からも理解できるように、マルチカルチュラリズムの議論に留まるアーティストではありません。今回、リサーチを通して、宮島さんの活動は作品や作家という枠組みを再構築して、観客まで含めて作品としていることに気づかされました。宮島さんが掲げるコンセプトにもあるように、「変化し続ける」アーティストとしての宮島達男を伝えていく必要性を感じています。

― 今、宮島達男の展覧会を行うことに、どのような意味があるとお考えでしょうか。

 大きく打ち出してはいませんが、今回の展覧会を見ることで、「他者とは何か、人間にとって関係性とは何か」、といったことを考えるきっかけになる展示だと思います。世界中で分断が生じ民主主義が危機に晒され、新型コロナウイルスの流行で物理的に結びつくことに障壁がある今の時代でこそ、力を持つ展覧会かもしれません。
また、宮島さんは、「自分について考える時には、他者との対話が必要だ」とおっしゃっています。コレクションとのコラボレーションや参加型の作品では、観客と作品の対話が生じるはずです。一方で、宮島さんは、「他者というのは自分にとっての鏡だ」ともおっしゃっています。観客は作品と対話すると同時に、自分とも対話をしている。つまり、宮島さんの作品は、自己を投影する鏡でもあるんです。それぞれの人が、自由にこの展覧会を見て、作品という鏡に何が映し出されるのか、感じ取ってもらえればと思います。

 

森啓輔(もり・けいすけ)
1978年三重県生まれ。武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻修了。千葉市美術館学芸員。専門は日本近現代美術、美術批評。高松次郎、もの派を中心とした1960–70年代の美術動向の研究と並行して、絵画、彫刻に関する現代美術作家の展覧会を企画・担当。主な展覧会に「イケムラレイコ PIOON」(ヴァンジ彫刻庭園美術館、静岡、2014年)、「菅木志雄」(同、2014–2015年)、「クリスティアーネ・レーア 宙をつつむ」(同、2015年)、「生きとし生けるもの」(同、2016年)、「日高理恵子 空と樹と」(同、2017年)、「須田悦弘 ミテクレマチス」(同、2018年)など。
著書に『Jiro Takamatsu Critical Archive』(共著[vol.4]、ユミコチバアソシエイツ、2012年)。

 

[展覧会概要]
宮島達男 クロニクル 1995-2020
会期:2020年9月19日〜12月13日
会場:千葉市美術館
https://www.ccma-net.jp/exhibitions/special/tatsuo-miyajima/


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