和田唯奈 絵本原画展「ぽっかりちゃん」開催中

2019年3月11日(月)〜3月24日(日)、台東区の共同アトリエ「B.Esta337」(東京都台東区台東3-3-7)にて、和田唯奈による絵本原画展「ぽっかりちゃん」が開催中である。

展覧会では、絵本『ぽっかりちゃん』のために2年にわたって描きおろした原画26点を一堂に展示。共同アトリエ「B.Esta337」は、決して広いとは言えない昔ながらの一軒家であるが、「絵本の原画」というには大きな作品群が、絵本そのままの順番で会場を濃密に埋める。

鑑賞者は、会場入り口にあるmp3プレイヤーを手にとって、著者による絵本の朗読を聞きながら、作品を鑑賞することができる。実際の絵画作品を目の前にしながらストーリーを追いかけることで、絵本の中に入ったような独特な鑑賞体験が得られるだろう。心に傷を背負ったぽっかりちゃんが、地震という偶発的な現象をきっかけに、ぷつりくんという男の子と出会い、恋に落ち……、という一人の少女における心の冒険譚の結末は?

また、和田の作品には、その細部に寓意が幾重にも描き込まれているだけでなく、表面や側面の処理においても、複数のコンテクストが練りこまれている。実際の作品を目の前にそうしたコンテクストを読む楽しみもあるだろう。

展覧会はひとつの「絵本」であり、「絵画」の可能性を追い求めてきた和田の集大成とも言える展示となっている。

【展覧会概要】
絵本原画展「ぽっかりちゃん」
共同アトリエ「B.Esta337」(東京都台東区台東3-3-7)
2019年3月11日(月)〜3月24日(日)
14時~21時(会期中無休)

 


また、3月27日(水)19:30-には、銀座蔦屋書店にて、和田唯奈と黒瀬陽平によるトークイベントが開催される。
和田唯奈『ぽっかりちゃん』刊行記念トーク「あなたのためにひとつ、絵本という芸術をつくりました」

「絵画であり絵本である」という独自の絵画のありかたについて、絵本原画展「ぽっかりちゃん」、さらには昨年大きな話題となった「しんかぞく展」などに触れることで、和田の様々な側面に迫っていく。トークを深く楽しむためにも、絵本原画展「ぽっかりちゃん」は必見であろう。

【トークイベント&サイン会】
和田唯奈 はじめての絵本 『ぽっかりちゃん』(ART DIVER)刊行記念
和田唯奈×黒瀬陽平 「あなたのためにひとつ、絵本という芸術をつくりました。」

日程 2019年3月27日(水)
時間 19:30~21:00
場所 銀座蔦屋書店 BOOK EVENT SPACE
主催 銀座 蔦屋書店
定員 50名
問い合わせ先 03-3575-7755
https://store.tsite.jp/ginza/event/art/5214-1117320312.html

 


『ぽっかりちゃん』によせて(文・和田唯奈)

この度わたしは、
子どもたちと、子どもの心をもったまま大人になったひとたちへ、
ひとつ芸術をつくりました。
絵本です。

あなたは、絵本を読み聞かせてもらったことがありますか?
どうか、たくさんありますように。
ちなみにわたしは、たくさんありますよ。
わたしのお母さんは、毎晩かならず絵本を一冊、
眠る前のふとんのなかで、読み聞かせてくれました。
それはわたしの、たしかに愛された記憶です。
わたしは絵本がだいすきでした。
なによりもたしかな愛と共にあったからです。
あなたも絵本と聞いてたしかな愛を思い出せるのであれば、幸いです。

もうすこしわたしの話をします。
当時は、じぶんでもつたないながら絵本を描いていました。
わたしはいま絵描きですが、
その原体験は、じつはじぶんの絵本を描くことにあります。
その一部はまだ保管してあり、さいきん読み直しました。
ただじぶんの絵本といっても、
内容は読み聞かせてもらった絵本の真似をしたようなものばかり。

でもだからこそ、わたしが絵本をどんなものだと考えていたのか、
鮮明に思い出されたのです。
穏やかなまどろみの、深い眠りにつく前のこと。
母の声は、世界を覆うまくを見破り、そこに隠れたひみつを暴く。
たしかな愛に包まれたわたしは、現れた奇形の生物にも動じず、
疑いなく憑依するのだ。
特異な秩序を真っ直ぐ進み、超現象も無邪気に受け入れ、
異種間交流も容易くこなし、暴力さえ軽やかな笑いと共に受け流しながら、
好奇心の勢いにのって、不可思議な事件も寛容な解決へと導くころ、
達成感と安堵が視界を暗く染めはじめ
目がさめると、すでに世界のまくは元通り、すきまなく閉じているのでした。

わたしは知っていました。世界はまくで覆われていることを。
まくを破ればそこに、世界のひみつがあることを。
どうやらそれは、とてもじゅうだいなひみつのようでした。
だって保育園でも小学校でもテレビでも、家族だって、
ふだんの生活で絵本に描かれていることを話す大人は、だれもいないのです。
お母さんも、薄情でした。
まくを見破る張本人で、ひみつを共有しておいて、
ふだんはしれっとしています。
どうして? 毎晩くりかえしているのに。
だからわたしはたしかめたくて、じぶんで描いていたのです。
絵本が、ほんとうにあることを。

わたしの話が長くなりました。
退屈でしたね、ごめんなさい。眠くなってしまったでしょう。
ほら、ここにふとんがあります。
入って。

わたしもあれからずいぶん成長しまして、お母さんになったのです。
みてください。ついに、ほんものの絵本を描きました。
『ぽっかりちゃん』という絵本。

子どもたちと、子どもの心をもったまま大人になったひとたちへ、
そう、あなたのために、
ひとつ芸術をつくりました。

まどろんできましたね。
深い眠りにつく前に、
お母さんが、世界のまくを破ってみせましょう。
さあ、どうぞ。


【ぽっかりちゃん あらすじ】
心の中に住んでいるぽっかりちゃんは、いつもぽっかり。
たのしいとも、かなしいとも、うれしいとも、くるしいとも、感じません
そんなぽっかりちゃんの目の前にぷつりくんという男の子が現れます。
ぷつりくんと出会って、ぽっかりちゃんは「だいすき」という
気持ちを持つようになり……。

絵本『ぽっかりちゃん』詳細はこちら

 

和田 唯奈(わだ ゆいな)プロフィール
画家。1989年岐阜県生まれ。名古屋芸術大学洋画2コース卒業。Gallery Delaive(アムステルダム)所属。GEISAI#17鈴木心賞受賞、ゲンロン カオス*ラウンジ新芸術校第1期夏野剛賞。2017年より絵画教室『お絵描きのお家』をはじめ、2018年よりお絵描きのお家の生徒を組織したコレクティブ『しんかぞく』を主催している。主な個展に、2013-2014年 Gallery Delaive(アムステルダム)、2017年 ゲンロン カオス*ラウンジ新芸術校上級コース成果展『まつりのあとに』連動企画『あなたのわたしで描いた絵』B.Esta337(東京)。主なキュレーション展に、2019年 お絵描きのお家による絵画展『しんかぞく』都内各所、B.Esta337(東京)

 

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