書名:「ぽっかりちゃん」
作・絵:和田唯奈
ページ:60ページ(オールカラー)
製本:上製本(絵本)
サイズ:B5判変形
デザイン:小林すみれ
ISBN:978-4-908122-13-2
2019年3月11日刊行
作者プロフィール
和田唯奈(わだ・ゆいな)
画家。1989年岐阜県生まれ。加納高等学校美術科、名古屋芸術大学洋画2コース卒業。Gallery Delaive(オランダ)所属。GEISAI#17鈴木心賞受賞、ゲンロンカオス*ラウンジ新芸術校第1期夏野剛賞受賞。
[主な展覧会]
2012年 個展「KIRAKIRA」YEBISU ART LABO(愛知)
2012年 個展「GEISAI#17 鈴木心賞受賞 和田唯奈個展」Hidari Zingaro(東京)
2013-2014年 個展 Gallery Delaive(アムステルダム)
2016年 個展「和田唯奈のお誕生日パーティ」ゲンロン カオス*ラウンジ 五反田アトリエ(東京)
2017年 ゲンロン カオス*ラウンジ新芸術校上級コース成果展「まつりのあとに」連動企画「あなたのわたしで描いた絵」B.Esta337(東京)
2018-2019年 お絵描きのお家による絵画展「しんかぞく」都内各所、B.Esta337(東京)
2019年 絵本原画展「ぽっかりちゃん」B.Esta337(東京)
展覧会情報
絵本原画展「ぽっかりちゃん」
共同アトリエ「B.Esta337」(東京都台東区台東3-3-7)
2019年3月11日(月)〜3月24日(日)
14時~21時(会期中無休)
『ぽっかりちゃん』によせて(文・和田唯奈)
この度わたしは、
子どもたちと、子どもの心をもったまま大人になったひとたちへ、
ひとつ芸術をつくりました。
絵本です。
あなたは、絵本を読み聞かせてもらったことがありますか?
どうか、たくさんありますように。
ちなみにわたしは、たくさんありますよ。
わたしのお母さんは、毎晩かならず絵本を一冊、
眠る前のふとんのなかで、読み聞かせてくれました。
それはわたしの、たしかに愛された記憶です。
わたしは絵本がだいすきでした。
なによりもたしかな愛と共にあったからです。
あなたも絵本と聞いてたしかな愛を思い出せるのであれば、幸いです。
もうすこしわたしの話をします。
当時は、じぶんでもつたないながら絵本を描いていました。
わたしはいま絵描きですが、
その原体験は、じつはじぶんの絵本を描くことにあります。
その一部はまだ保管してあり、さいきん読み直しました。
ただじぶんの絵本といっても、
内容は読み聞かせてもらった絵本の真似をしたようなものばかり。
でもだからこそ、わたしが絵本をどんなものだと考えていたのか、
鮮明に思い出されたのです。
穏やかなまどろみの、深い眠りにつく前のこと。
母の声は、世界を覆うまくを見破り、そこに隠れたひみつを暴く。
たしかな愛に包まれたわたしは、現れた奇形の生物にも動じず、
疑いなく憑依するのだ。
特異な秩序を真っ直ぐ進み、超現象も無邪気に受け入れ、
異種間交流も容易くこなし、暴力さえ軽やかな笑いと共に受け流しながら、
好奇心の勢いにのって、不可思議な事件も寛容な解決へと導くころ、
達成感と安堵が視界を暗く染めはじめ
目がさめると、すでに世界のまくは元通り、すきまなく閉じているのでした。
わたしは知っていました。世界はまくで覆われていることを。
まくを破ればそこに、世界のひみつがあることを。
どうやらそれは、とてもじゅうだいなひみつのようでした。
だって保育園でも小学校でもテレビでも、家族だって、
ふだんの生活で絵本に描かれていることを話す大人は、だれもいないのです。
お母さんも、薄情でした。
まくを見破る張本人で、ひみつを共有しておいて、
ふだんはしれっとしています。
どうして? 毎晩くりかえしているのに。
だからわたしはたしかめたくて、じぶんで描いていたのです。
絵本が、ほんとうにあることを。
わたしの話が長くなりました。
退屈でしたね、ごめんなさい。眠くなってしまったでしょう。
ほら、ここにふとんがあります。
入って。
わたしもあれからずいぶん成長しまして、お母さんになったのです。
みてください。ついに、ほんものの絵本を描きました。
『ぽっかりちゃん』という絵本。
子どもたちと、子どもの心をもったまま大人になったひとたちへ、
そう、あなたのために、
ひとつ芸術をつくりました。
まどろんできましたね。
深い眠りにつく前に、
お母さんが、世界のまくを破ってみせましょう。
さあ、どうぞ。