インタビュー|梅津庸一「今、必要なヘルスケアとは」

継続開催に向けて検討中である〈KENPOKU ART 茨城県北芸術祭〉の関連事業として、2018年9月15日(土)〜9月29日(土)の2週間の日程で開催される「パープルーム大学附属ミュージアムのヘルスケア」。
パープルーム予備校主宰の梅津庸一に、今回の芸術祭への参加意図を尋ねた。


― 展覧会のチラシには、Twitterのパープルームアカウント(@parplume)による投稿「乱立する芸術祭はそれぞれに差異化を図ろうとする。観客や住民はその差異を楽しむのだろうか?」(2018年8月6日)が印字されています。芸術祭参加への立場表明ともとれますが、この真意は?

梅津 今回の企画はこちらから申し出たわけではなく、KENPOKUサイドから打診があって受けたもの。数年毎に開催される芸術祭本体の間に開催されるスピンオフ企画にパープルームが招聘されたかたちです。今年はパープルームを含め3人のアーティストが呼ばれていると聞いています。
作家1人を呼ぶ枠に、パープルームは20人を超える集団として参加します。つまり入れ子状になっている。ただし、予算が人数分増えるわけではなく、1人分の予算を20数人に分配してるので、作品の運送費や設営費だけで当然赤字になります。芸術祭への参加作家によくあるような、「予算をもらって、ちょろっと作品を出して終わり」というものとは一線を画すものになると思います。
チラシの文言もそうですが、乱立する芸術祭への苦言を皮肉交じりにステートメントに入れています。私は、芸術祭の根本的な理念に「地域貢献」があると思っていて、この事業もまた、アートの力を使って県北地域の魅力を深めようとしている。「地域貢献」とは聞こえはいいのですが、結局アートを町おこしのツールにしているような感じがやっぱりどうかなと思っています。それこそがアートがだめになっていく一因だとも思っています。そういったなかで今回の依頼が来たのですが、依頼が来たからといってコロっと態度を変えて、茨城県や県北のためにがんばりますとは言えないわけです。現在の美術教育制度全般に言及し、活動してきたパープルームにとって芸術祭もまた美術大学と同じように仮想敵であり芸術活動の場にもなり得ると思っています。

― 芸術祭への苦言をどのようにかたちにしようと考えていますか?
梅津 今回はいくつかの会場の候補から常陸太田市の郷土資料館「梅津会館」を選びました。自分にとってとりたてて興味深い歴史的背景があるわけではないのですが、この建物で展示をすれば、行政と関わっていることは誰が見てもわかる。つまり、郷土の制度的な色の強いところでやりたかった。それと、たんに「ガレージみたいなところで予算をもらいながら好き勝手にやる」とか、「住民と仲良く交流する」というのは避けたかった。あとは、「梅津会館」という名前を聞いて、ここしかないと思いました。

― 場所へのリサーチはしましたか?
梅津 いえ、あえてほとんどしていないです。芸術祭の一つの型として、場所を丹念にリサーチして地元の人も知らないような伝説とか逸話を発掘するものがありますが、それって結局、たんなる地域貢献だと私は思っていて。だからそういう意味でも貢献はしない。よそ者としてふらっと梅津会館に行った人が、思いつきそうな展覧会を様々な制約を抱え込みながらやりたいと考えています。なんとなくここに、たんぱく質さんの作品があってもいいな、とか。

― 20数名の作家の選定はどのようにされていますか?
梅津 パープルーム予備校生、パープルーム周辺の作家たちが中心ですが、今回の裏テーマにしているのは、作品というオブジェクトが持っている「時間」です。例えば、ユアサエボシさん。彼は自分を近代洋画の物故作家に設定しペインティングを制作する作家。美大は出ておらず、コンペだけでのしあがってきた叩き上げの作家です。彼の作品には戦後の1950年代に描かれた設定の絵があって、それが梅津会館(1936年竣工)の時間軸とリンクするのではないかと。大野陽生さんは、春にURANOで開催した「共同体について」にも参加していますが、彼の彫刻は2018年作なのに1000年前のものにも見えるし、古代文明の時代のものにも見える。一方で郷土資料館にある古いものが新しく見えるということもあります。あるいは、やとうはるかさんはいわゆる狭義の意味での「キャラクター絵画」と分類されがちな作家ですが、自分なりの神話や考古学を描いている。「キャラクター絵画」というのは2000年代以降の村上さん、奈良さん以降に市民権を得た形式ですが、やとうさんは太古の時間軸で「キャラクター絵画」的文法を試みている。
彼らがつくったり表したりしている時間は必ずしも今ではなくて、それらが郷土資料館のものとコネクトしたり切断されたりするのではないか、ということを考えています。また、まだパープルーム予備校に入って2ヶ月足らずの予備校生の作品もしっかり展示したいと思っています。

 

 

― そこに様式の伝達などの「受粉」を起こす可能性があると?
梅津 はい。今まで花粉が届く範囲は、現代のパープルーム周辺の作家たち、そして参照元の「近代美術」、「現代美術」が主だったと思うのですが、それがもうちょっと広がって、資料館にあるような考古物とかアートではないものとかに、ちょっかいを出していく感じです。

― ご自身は何を出すのですか。
梅津 私はアートバーゼル香港に出した《智・感・情 ―個体発生は系統発生を繰り返すのだとしても―》を加筆して出品します。前のバージョンの《智・感・情・A》は過去に8回ほど展示しているのですが、絵のクオリティとは別に、8回の展覧会やキュレーションを経験したことで複雑な文脈が付加された作品だと思っています。だからこの作品も、いろいろな展覧会の経験をさせようと思っていて、これが2回目。前回がアジアのマーケットの中心地である香港のアートフェアでの展示で、今回は芸術祭の関連企画というやや公的な場に持っていく。
また、参加作家にも新作はあまり出してもらわないようにしています。それだと新作発表のグループ展になってしまうので、旧作から選んでいる作品が多いです。

― これまでパープルームの展覧会は「パープルーム大学」という名前でしたが、今回は「パープルーム大学附属ミュージアム」。さらに「のヘルスケア」というどこに係るかわからない言葉が加わっていますが。
梅津 まず気がついたこととして、郷土資料館という形式は「ミュージアム」の原形と似ているのでは、ということでした。美術館、いわゆるアート・ミュージアムは、今でこそ博物館や科学館、図書館などと区別されていますが、16世紀以前はもっと区分が曖昧で、その土地の有力者や学者が個人でありとあらゆるものをそれぞれにコレクションし飾りつけた部屋だったといいます。現在、ミュージアムの中で郷土資料館はもっとも小規模で雑多で、日本全国の市町村に数多く点在している施設と言えます。常陸太田市の郷土資料館「梅津会館」にも縄文時代のものっぽいレプリカから江戸時代の住居の模型、現代の常陸太田市の変遷みたいなものまで、政治と科学と地質学、芸術が渾然一体となって、しかも整理されないまま置いてある。これこそ、不完全かつプリミティブなミュージアムの姿だと思いました。そうした郷土資料館に、パープルームという現代アートの局所的な要素を足すと、公的なきちんとした美術館よりも、ある意味では現代のミュージアムにふわさしいものになるのではという構想です。わずか2週間の会期ではありますが、展覧会というより「パープルーム大学附属ミュージアム」をつくるという意気込みです。

― 「ヘルスケア」とは、何に対しての健康管理なのでしょう?
梅津 今は全国各地で芸術祭が開かれています。その予算の多くは税金です。はたしてそうした予算を芸術祭に使うのがいいのか、あるいは美術館に使うのがいいのか。もしこのお金を美術館にあてることができたなら、新たなコレクションをしたり、作品を修復をしたり、充実した企画展が組めるかもしれない。美術館に行かない多くの人にとっては、美術館に予算があてがわれることは好ましいことではなく、作家が街に来る芸術祭のほうが予算が通りやすいのかもしれません。わざわざ美術館に行かなくてもアートと触れ合えるし、町が活性化するから。実際に越後妻有や瀬戸内の成功例もありますが、それに追従するように、全国各地でたいしてコンセプトを練らない状態で芸術祭が乱発しているのはどうなのだろうかと。
だから、「ヘルスケア」は、ミュージアムやミュージアムの収蔵作品へのヘルスケアであり、また芸術祭自体へのヘルスケアでもあります。美術館の予算が削られ、芸術祭だけは全国に乱立する現況がもしかしたら不健康ではないかという問題提起です。
つまり、地域アートがあることによって、ミュージアムが弱体化している。ミュージアムには宝物があり、それを一部のアートファンだけが楽しむことへの批判もあるのでしょう。しかし一方で、芸術祭で森や町の中に作品があるという状態は、観客に開かれている面があるものの、作品が芸術祭後も恒久的に設置される例は限られるし、作品が現地に残る場合でも誰がそれをケアしていくのかという問題もあります。それを街のボランティアに頼るのはあまりに心もとないと思います。そこにはマテリアルとしての作品の実存を揺るがすもやもやとした不安が付きまといます。裏を返せば物体としての作品はなくなっても民話や言い伝えのように一種の物語として残っていくという考え方もありますが、私はそれには懐疑的です。

その意味で、「ヘルスケア」といった言葉のかかる部分はもうちょっと曖昧で範囲が広く、「ミュージアム」や「芸術祭」だけでなく、プレイヤーや観客や作品も含めて、みんなのヘルスケア、そんなことをこの展覧会で考えたいということです。

ポートレイト撮影:藤田直希

 

 


展覧会名:
パープルーム大学附属ミュージアムのヘルスケア

会期:
2018年9月15日[土]〜2018年9月29日[土] 10:00〜17:00
*9月18日,25日[いずれも火]は休館

会場:

常陸太田市郷土資料館梅津会館(茨城県常陸太田市西二町2186)

出展:

金中高貴,西島大介,藤伸行,リスカちゃん,qp,星川あさこ,宮下大輔,KOURYOU,小林椋,やとうはるか,大野陽生,ユアサエボシ,堀至以,たんぱく質,茨城県が管理する映像資料,郷土資料館の収蔵品

梅津庸一(パープルーム予備校 )

安藤裕美,アラン,吉田十七歳,シエニーチュアン,わきもとさき(パープルーム予備校生)

入場料:
無料

URL:

http://www.pref.ibaraki.jp/kikaku/kenpokusinkou/art/20180829artproject.html
http://www.parplume.jp/tennji/tokusetu20189.html


関連書籍

梅津庸一『ラムからマトン』
https://artdiver.tokyo/?product=ramumato

 

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