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レポート|「寺田小太郎 いのちの記録—コレクションよ、永遠に」展 後編「継承」

寺田展後編アイキャッチ

レポート|「寺田小太郎 いのちの記録—コレクションよ、永遠に」展 後編「継承」

 

2019年度に多摩美術大学美術館が故・寺田小太郎(1927-2018)より59点の美術作品を受贈したことを記念し、企画された展覧会「寺田小太郎 いのちの記録—コレクションよ、永遠に」。同展は前編(7月10日〜9月20日)、後編(10月2日〜11月21日)の2期にわたって開催され、多摩美術大学美術館収蔵作品を含む約190点の作品群と資料から、寺田の思いに寄り添い、寺田コレクションに込められた「物語」をひもとく企画である。前編(https://artdiver.tokyo/archives/14820)に引き続き、後編の様子をレポートする。

「起源」という副題のもと寺田コレクションの原点へとさかのぼり、寺田の感性と美意識のルーツを辿ることを試みた前編に対して、10月2日より開幕した後編では、「継承」を副題に、寺田のまなざしの先にある未来へと想いを馳せることが試みられている。
展示構成は、「人間 この未知なるもの」、「幻想美術 見えないものとの対話」、「自然の声 未来のアニミズム」、「センス・オブ・ワンダー 最後の希望」の4章となっている。また、前編に引き続き、コレクションの展示に加えて、寺田が長年携わっていた造園家の仕事も紹介されている。寺田直筆の庭園見取図や綜合庭園研究所在籍時に撮影した古写真などが展示され、収集活動の背景にある美意識と感性の「起源」を探った前編から一歩踏み込み、後編では、2000年以後、寺田が監修していた東京オペラシティビルの植栽がどのようにつくられていったのか、関係者へのインタビューによって明らかにしたドキュメンタリー映像が展示されている。今回の展覧会のために制作された『東京オペラシティに広がる「武蔵野」のイメージ』と題された同映像では、寺田が自然の摂理に沿って造園を行なっていたということもわかる。寺田は、東京オペラシティビルの植栽を監修するにあたって、枝を剪定する際には自然のままの枝が残るようにし、立ち枯れた倒木をそのまま活かす管理方法を採用していたそうだ。人間の都合を優先し、短期的な見栄えに執着するのではなく、ゆっくりと時間をかけて手入れする姿勢は、物質的・経済的な豊かさよりも人間の精神的な豊かさに価値をおき、後世に美術作品を伝えることを志した寺田コレクションの活動に通ずるものがある。

『東京オペラシティに広がる「武蔵野」のイメージ』展示風景 ©️中川周

それでは、順に展示を見ていきたい。
1章「人間 この未知なるもの」では、寺田が好んで収集を続けた人間の姿かたちを主題とした作品が展示されている。そのバリエーションは幅広く、都市生活者をクールに捉えた相笠昌義の油彩作品から、日本画家・内田あぐりによる《女人図-その一》、うさぎをモチーフに立体と平面を組み合わせて人間社会のあり様を表現した呉亜沙《My Position-coming and goings》まで、立体、平面、画材、年代を問わず、多様な人物表現が見られる。
これらの作品が収集された背景には、寺田の人間存在への飽くなき探究心があった。1927年生まれの寺田は多感な時期に戦争を経験したことで、生涯にわたって「人間とは何か」という問いに向き合い続けていたという。その思索の果てに至ったのが、人間の様々な姿が垣間見える作品の収集であったのだ。

1章「人間 この未知なるもの」展示風景 ©️中川周

続く2章「幻想美術 見えないものとの対話」で展示されているのは、寺田が「幻想美術」と名付けて収集した、不可視の世界や神秘的現象を表現した作品群である。興味深いことに、寺田は1962年から足繁くUFOの観測会に通っており、同章ではコレクションとあわせて、「空飛ぶ円盤」を初めて目撃した時のことを記した『UFO初見参の記』(私家版、1962年)も展示されている。ともすると与太話として否定されかねない「空飛ぶ円盤」の存在を肯定し克明に記述した寺田の姿勢からは、「幻想美術」を単なる想像として切り離すのではなく、現実にある存在そのものを問い、事物の根源に迫ることが可能なもう一つの世界と捉えていたことがうかがえる。隕石や船が宙に浮かぶ世界を静謐に描いた川口起美雄《柔らかな隕石》や、生花から女性の顔が現れる様を描いた開光市《フラワー》など、不可解でありながらも、どこか現実と地続きな印象を受ける作品群。これらは、視覚芸術というものが不可視の存在に「かたち」を与え、目に見える世界の内側にある隠された真実を浮かび上がらせるといった確信のもと収集されたのである。

2章「幻想美術 見えないものとの対話」展示風景 ©️中川周

3章「自然の声 未来のアニミズム」では、服部知佳、金井訓志、富田有紀子による植物を描いた平面作品や、富田菜摘による廃材を用いた立体作品が展示されている。これら人間以外の存在を表現した作品を寺田が収集した所以は、寺田独自の自然観にある。幼少期より動植物と触れ合い、長年にわたって自身の手で土や草木を扱う造園の仕事に携わった寺田は、人間の営みと自然を切り離さず、一体のものとして捉えるに至ったという。こうした考え方は、人間と自然を分け隔てて考える西欧の自然観とは異なり、古来東洋に伝わる「自然じねん」の概念に近い。視覚だけでは捉えきれない「自然の声」を聞き、自然の内に秘められたエネルギーを感じとっていた寺田は、同章で展示されている作品に、人間以外の存在への意識を掻き立てる力を感じていたのであろう。

3章「自然の声 未来のアニミズム」富田菜摘作品の展示風景 ©️中川周

同展の最終章となる4章「センス・オブ・ワンダー 最後の希望」で展示されているのは、「後編『継承』」のメインビジュアルでもある奥山民枝《山照》をはじめ、自然のエネルギーを表したかのような瑞々しい作品群である。章題の「センス・オブ・ワンダー」は、自然破壊と化学薬品の濫用に警鐘を鳴らした『沈黙の春』の著者、レイチェル・カーソンの遺作『センス・オブ・ワンダー』に因る。「センス・オブ・ワンダー」は「自然の神秘や不思議さに目を見張る感性」を意味し、同書では、子どものように澄み切ったまなざしで世界を見つめ、美しいものを美しいと素直に享受する感性を持ち続けることの大切さが説かれている。寺田は、最晩年に同書を愛読し、自身の思いを代弁するものとして周囲に贈呈して回っていたことからも、「センス・オブ・ワンダー」は寺田の自然観を体現する言葉であることがうかがえる。
展示室にはコレクションとあわせてレイチェル・カーソン『センス・オブ・ワンダー』(上遠恵子訳、新潮社、2014年 初版:1996年)が展示され、「雷のとどろき、風の声、波のくずれる音や小川のせせらぎなど、地球がかなでる音にじっくりと耳をかたむけ、それらの音がなにを語っているのか話し合ってみましょう」など、同書の一節が壁面に掲示されている。これらの言葉と、コレクションをあわせて見ることで、寺田が抱いていた自然への畏怖と敬愛、自然に触れることの喜びを感じ取れるはずだ。

上下ともに、4章「センス・オブ・ワンダー 最後の希望」展示風景 ©️中川周

寺田コレクションのルーツを示した「前編『起源』」に続き、「後編『継承』」でも、寺田がコレクションに込めたメッセージを伝えることが強く意図されていた。私たち鑑賞者が、そのメッセージを受け取り、人間と社会について考えることこそが、寺田コレクションを「継承」することではないだろうか。「寺田小太郎 いのちの記録」は、「芸術には人を変容させる力がある」という寺田の信念を体現する展覧会であった。

[展覧会概要]
寺田小太郎 いのちの記録−コレクションよ、永遠に 後編「継承」
会期:2021年10月2日〜11月21日
会場:多摩美術大学美術館(https://museum.tamabi.ac.jp/
前編「起源」詳細は こちら から
後編「継承」詳細は こちら から

 

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