「これが小林くんの最初の画ね」。
何も描かれていない真っ白なキャンバスを目の前に、「せんせい」は小林青年にこう言った。
恋心をよせていた音楽のせんせい。
そのヌードを描く絶好の機会を得た小林青年であったが、初めて手にした油絵の具では、目の前に横たわる輝くばかりの裸体をキャンバスに写し取ることができなかった……。1980〜90年代にかけて、国立のアトリエで描かれた宝石のような初期作品群。
《天使=絵画》《絵画=空》《天窓》《絵画の子》……、といった傑作の数々はいかにして生まれたのか。小林正人にとって、「画を描くとは?」「絵画とは?」「愛とは?」……。
ひとりの青年が、画と出会い、画家として成長していく姿を、自伝小説の形式で語るビルドゥングスロマン3部作の第1作。時代を正直に生き、つかみとった〝真実〟だけが言葉となる。
伝説のキュレーター、ヤン・フートに才能を認められ、国際デビューをはたす直前までの「国立時代」を著した〝青春編〟。
絵描き人
読み始めたらとまらない。
文章に疾走感があり、読んでいて心地よい。
画家の文章だけに、視覚的な美しさもある。
さりげない描写にきらきらと色が見える。
ふだんは入れないアーティストのアトリエに画家と一緒にいるような、
いや、画家になって絵を描いているような、
そんな体験ができる素晴らしい本です。
洞窟時代から、人は絵を描いてきた。
いつの時代も、なぜ絵を描くのかは問われてきたが、
その一つの答えをこの本に見るような気がする。
そして物語の豊かさ。
著者や周囲の人の人間模様、やさしさ、愛情などなど。
遠くの星が線でつながれて、星座になるような、
細部が次々とつながる物語展開に感動。
ロマンティックな要素もあるが、
情緒に流されず、見事に描き切った快著。